教えなきゃ良かった

丸山 令

部活で起きがちなハプニング

「やっばっ。コンタクト飛んだ。動かないでくれ!」


 隣のコートで練習していた悠馬が、声を上げた。途端、周囲の人間は動きを止める。


 バドミントンのシャトルが、目の縁に当たった時に、起きがちなハプニング。

 その場で部活を行なっていた部員全員が、その場にしゃがみ込んで地面を這いずり探すという、今体育館に入って来た人から見たら、何事かという状況。


 ここで、落ちたコンタクトを発見すれば、見つけた人は一躍英雄になれるんだけど、今回は、上手くいかなかったみたい。


 数分後に発見されたコンタクトは、無惨に破れていた。



「コンタクトの人って、常に眼鏡を持ち歩いてるものなの?」


 駅に続く帰り道。

 斜め前を歩いていた悠馬に声をかけると、耳の後ろを掻きながら悠馬はため息をつく。


「どうかな? 俺は、部活がある時は、一応持って来てるけど。予備のコンタクトも持ってるけど、ワンデーだから夕方から使うの勿体無い」


 いつもバカばっかり言って騒いでいる悠馬とは思えない、しっかりもの発言。

 見上げた彼は、茶系の比較的フレームがしっかりした眼鏡をかけている。

 彼は、不貞腐れたように顔を顰めて言った。


「似合わないっしょ。だからあまりかけたくないんだけど、俺、滅茶苦茶 目悪いから」


 ふーん。コンプレックスなんだ。

 確かに、いつもより目が小さく見えるけど、悠馬って元々目がぱっちりしていて可愛いらしい顔だから、眼鏡をかけると引き締まるよね。


 それに、ずり落ちた眼鏡をつる(テンプル)とフレームを持って直す仕草が、何だか理知的に見える。


「私は、似合うと思うけど? 普段のバカさ加減がカバーされてる感じ」


「褒めてんの? けなしてんの? どっち?」


 半眼で言ってくる悠馬。

 あ。ほら。

 正面顔も、何だかいつもより凛々しく見える。


「え〜? 割合的には二対八くらい?」


「けなす方の比率、高くない?」


「いつもよりは大分褒めてると思うけど?」


 笑い合って、改札口で別れた。


 その日から、悠馬は部活のない時、たまに眼鏡をかけて来るようになった。

 それが、クラスの女子たちの間で、何気に好評だったりする。


 だよね!と、同意する反面、複雑な気分。

 あーあ。

 似合うなんて、教えてあげなきゃ良かった。

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教えなきゃ良かった 丸山 令 @Raym

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