保安官と農民 その7

 その日の夜、突然宙光は眠りから目が覚めた。

「…行かなければ。」

 宙光は立ち上がり、戸まで進んだ。

「兄様?」

 その可愛らしい声に宙光は思わず振り向いてしまった。

「どこに行くのですか、兄様?」

「さ、散歩だ。」

「兄様の嘘つき。嘘下手の嘘つき。」

「いや、ほんとに散歩だ。」

 宙光は慌てたがもう一つの声が入り込んだきた。

「嘘つきに育てた覚えはないよ、地助。」

 母の宙も起きてきてしまった。

「母上…」

「由紀から聞いたよ、侍のこと。」

「兄様、またユウキリスって人に会うの? やめて! その人は危険です! 絶対に!」

「その人は私の恩人で英雄なのだ。」

「私とこの村の恩人で英雄は兄様ただ一人です!」

 滅多に叫ばない由紀は思わず声を上げた。由紀は両手で顔を覆い隠し、しゃがみ込んだ。

「行かないで、兄様! ユウキリスは危険です! あの侍の人がやっつけた方がいいと思います。」

「由紀、私の恩人になってことを…」

「私も由紀と同意見だよ!」

「母上まで…」

 宙光は視線を宙に向けた。

「…なぜです?」

「ユウキリスがお前を助けたのは優しさじゃない、気まぐれだ。」

 宙は淡々と言った。

「今度会った時に敵意を向けない保証はない。」

「……それでも、私は彼に死んでほしくないのだ。」

 宙光はそう返すと、由紀は強く兄の手を握った。

「どうしても行くなら私も行く。私を吸血鬼にして。」

「由紀…。」

「私もお願いしようかね。」

 宙も息子の手を握った。

「お前の魂はやり方を知っているはずだ。願うように私たちに力をおくれ。」

「母上……由紀……。人の道を歩めなくなる。村には戻れなくなるかも。いいのか?」

数分後、三つの生命体が安口村を出発し、空に羽ばたいた。

(ユウキリス、君の気配は覚えている! あの侍には接触させない!)

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