保安官と農民 その3

「さっさと入れ!」

「何をする! グア!」

 牢獄兵は弱りきった地助を無理矢理牢に押し入れた。

(動けぬ! 私は重症だ! どうしてこうなったのだ⁉︎ 侍は清くて優しい英雄ではなかったのか⁉︎)

「ハハッ、おい。デカブツのタフガーイ! 格安ホテルの我の部屋へようこそ!」

 地助が心の中で葛藤していると、影からの陽気な声が思考を遮ってしまった。その人物は足で地助を自分の方に回した。

「グア!」

「体格がよくて、なかなかいい顔でもあるな。我より目立つなんて許せないぜ。」

「グア!」

 その人の皮を被った化け物は勢いよく。地助の腹を踏みつけた。

「グッ! 君は誰だ⁉︎ 君も私をいたぶるのか⁉︎ 私が君に何をした⁉︎」

「んん〜。」

 男は赤い瞳を輝かせた。

「我の視界に虫が入った。特に空を飛ぶ虫はバズ〜、バズ〜って羽を動かしてうるさいもんだ。うっとうしい虫に暴力を振るわない理由がどこにある?」

「君も侍と一緒か…こちらの言い分を一切聞かずに、悪と判断し、理不尽をなすりつけるのか。」

 地助はそう言うと、男は少し黙ってから、手を農民の腹に置いた。体の変化に地助は敏感だった。

「傷が直った⁉︎」

「勘違いするな。お前の痛みを我がこの手の中に吸ったのさ。」

 男は説明しながら、赤い球体を示した。地助は深くお辞儀をした。

「なんとお礼を言ったら…」

「礼はいらねえ。お前を痛みから解放してやったのは同情による優しさじゃねえ。気まぐれな暇つぶしだ。」

 東武国らしからぬ服を着たその男は不敵に笑った。

「イーハー! 我の名はユウキリス、旅をしている吸血鬼。後、元保安官だ。」

「保安官?」

 地助は初めて聞く単語に戸惑いを覚えた。その戸惑いをユウキリスはすぐに勘付いて、答えることにした。

「まあ、文化が違うから仕方ねえか。保安官は特定の地域の治安を守るのが仕事なんだ。」

「なんと⁉︎ それこそ英雄ではないか! なぜやめたのだ?」

「……その町は我にとっちゃ狭かった。それだけの話。お前にとってもこの国は狭いじゃねーーのか? えーっと…。」

「私は地助だ。」

「地助か〜。 さっきは侍を随分とボロクソに言っていたが、あんたの話を聞かせてくれないか?」

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