高校生の頃に通販で買ったメガネの話

タカテン

念願のすっぽんぽんメガネを手に入れたぞ

 これはまだ漫画アプリもなければスマホもない、それどころかインターネットすら存在しなかった俺の高校時代の話さ。

 

 バカばっかが集まった底辺校、そんな俺たちの共通言語と言えば週刊少年ジャプンだった。

 誰もがジャプンを読んでいた。

 底抜けのバカも、度し難いバカも、救いようのないバカも、みんながジャプンを読んでいた。

 そう、ジャプンこそが俺たちの教科書だったんだ。

 

 だからさ、その日、俺が届いたばかりのメガネをかけて登校すると、みんなも同じメガネをかけていた。

 思わずニッと笑ったね。

 みんなもニカッと笑ったさ。

 自分の席に鞄を置きながら、やっぱりジャプンってスゲーなって思った。

 

 だってよ、雑誌の裏に載ってる通信販売の広告なんてどれも胡散臭いものばっかりで信じられねぇじゃん。

 でも天下のジャプンは違う。「正義・パワー・優勝」を謳うジャプンが、詐欺広告なんて載せるわけがねぇ!

 そう信じられるから俺たちは買ったんだ。

 

 ダイナマイト通販の『教室で女の子の服が透けて見えちゃう! すっぽんぽんメガネ』を!

 

 なんでもレンズに使われている新素材ダイナマインが教室に充満する青春エネルギーを吸収し、女の子の服を透視化してしまうらしい。

 ダイナマイン、スゲェ!

 

 さて。

 見ればもうすぐ朝のチャイムが鳴る時間――すなわちクラスで唯一の女の子・不二咲小春ふじさき・こはるが登校してくる時間だ。

 

 不二咲は可愛い。チョー可愛い。しかも胸がでかい。性格も多少のんびり屋ではあるが、ほんわかとしていて憎めないキャラをしている。

 これで隣の女子高と間違えてうちを受験した挙句、とりあえず名前さえ書いておけば合格すると言われているうちの入学試験でギリギリ補欠合格するぐらいのキング・オブ・バカで、親がマジもんのヤ〇ザでなければさぞかしモテたことだろう。

 

 ちなみに入学初日に不二咲をからかってスカートめくりまでした田中君は、次の日から学校に来なくなった。

 おそらく今頃は富士の樹海か日本海に沈んでいるに違いない。

 

 そんなわけで可愛いけれど下手したら身の破滅を招く不二咲に俺たちは手も足も出なかったわけだが、ついに一矢報いるというか、一糸まとわぬ姿を本人には知られないまま観察出来るという僥倖が訪れたのだ。

 

 俺たちは誰からともなく教室の扉の前に集まった。

 誰もがその瞬間をベストな位置で迎えようと押し合いへし合う。

 熱気が凄くて、メガネが曇る。いや、違う、俺たちの身体から溢れ出る若者エネルギーにダイナマインが反応しているのだ。そうに違いない!

 

 キーンコーンカーンコーン♪

 

 そうこうしているうちに朝のチャイムが鳴った。

 その音に混ざってぱたぱたと急いでいるのか、でもその割には妙にのんびりとしたテンポの足音が聞こえてくる。

 不二咲だ、不二咲が来たんだ!

 誰かがごくりと唾を飲み込んだ。

 ある者はクィっとメガネのブリッジを上げ、またある者はメガネのテンプルを直し、俺は曇ったようなメガネのレンズをハンカチで一拭きして、目の前の扉が開けられるのを今か今かと待ち構えた。

 

 ああ、本当に……。

 本当に俺たちは純粋で、そしてあまりにもバカだった。

 

 

 以上が俺の経験した苦い想い出さ。

 これを読んでいるみんなも気を付けて欲しい。

 今の世の中、雑誌の通販広告なんて見なくなったが、代わりにインターネット上には様々なウソ広告が氾濫しているからな。

 ジャプンのようにたとえそのサイトがどれだけ信用出来るところであっても決して油断はするな。

 それだけを伝えて終わりにするぜ。

 

 (追伸)

 

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 一番怪しい広告が出ていた人が優勝な(ぁ

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