第15話

 王都を出立して数日、以外にもエリスは旅慣れていた。まぁ一応引っ越してきたくらいだしな、なんかやってたんだろう。よく考えるとたまに出かけてたな。慣れたもんか、俺のほうが教わる事が多い。


「ふふーん、クロくん。こうやって獣除けにするんだよ」

「へぇ……勉強になるよ」


 王都を出てからこの態度だ。パレード直前に俺をゲロまみれにして能面になった女とは思えない。能面のまま手を振り俺がゲロを吐いたから臭かったんだろう、勇者様かわいそう……ということにした王都の連中は絶対許さんからな!陥落しろ!バーカ!王都襲撃イベントでも起きて潰れちまえ!俺は勇者じゃないからどうでもいいんだぞ!


「クロくん、明日は大きな街だね……」

「ああ、そうだな」

「私は喋らないからよろしくね……」

「少しは話せ!昨日の旅行者も不仲説信じてただろ!」


 エリスは昨日たまたまあった旅行者が話しかけてきた際にテントに逃げ込んだためゲロ吐いたせいで不仲なんですかと聞かれた。なんで噂広まってるんだよ!王族は真実を知ってますからじゃねぇんだよ!俺は潜在的に権力者は敵だと思ってるぞ、この仕打ちだからな。


「でも……人と接したくない……」

「なんで勇者になったんだ……いやエリスが選んだわけでもないか」

「……」


 澄んだ目で俺を見たエリスはもう寝るから明日よろしくと引っ込んでしまった。交渉俺がやるの?やだなぁ……本当に嫌。


「ようこそ勇者様!ハジマリ街へ!」

「……」

「エリス?」

「……お付の方もどうぞ」


 エリスの殺意のこもった視線を受けて俺のことを呼ぶ……誰だコイツ……?呼ばれなきゃ俺は適当な宿で勝手に取らせてガン無視で済ます気だったな。


「適当に……すぐでてく……」

「情報収集を済ませた後別の土地へ向かいますとのことです。えーと……」

「市長のゲンドリです、お付の方」

「勇者のエリスとクロです、お見知りおきを」

「はい」


 めっちゃ冷めてる、俺はどうでもいいって感じだな。この後におそらくこの街で一番いい宿に案内され俺の部屋はなさそうだなと思ったところエリスが俺の部屋はどこだという仕草をしたため急遽隣を開けようとしたものの貴族が止まってたらしく断念。エリスは同部屋でいいと伝えたものの市長はうだうだ文句を言い始めたため即座に街を出ることになった。


「なにあれ!!?」

「その声量さっき出してくれない?」

「失礼すぎるよ!クロくんに対して!」

「まぁ俺はおまけだし……」

「なにがハジマリ街よ!最低のハジマリじゃない!終りの町になればいいんだわ!」

「他の人にもそんな感じで接してくれれば俺こうなってないんじゃないかな?」


 街に入ると勇者様とゲロの人とか言われたんだけど……名前名乗ったら名乗ったでニヤニヤされるしさ。陰口でゲロくんって呼ばれてたぞ俺。


「クロくんがなにをしたのよ!」

「何もしてないからじゃないかな……パレードでゲロはいたことにされただけ」

「………ごめんね、クロくん……その……」


 あーあ、陰キャモードに戻っちゃった……落ち着かせないといけない、怒ってる時のエリスって感情の起伏ジェットコースターみたいになるんだよね。次は泣くぞ……よしどうどう。


「もう旅じゃなくて直接転移しようよ……」

「旅したいって言ったのはエリスだし、旅して魔物を狩って戦闘訓練をしたいんだろ?」

「もう大丈夫だよ……あの街がどうなってもいいし……もう転移して学術都市に行こうよ……」

「まぁ俺の噂のほとぼり冷ます必要もあるしな……学術都市で勉強と冒険者的活動でもして過ごすか」

「うん!そうしようよ!」

「じゃあ転移するか」

「しよう!しよう!」


 そして見たのは燃える町並み、逃げ惑う人々、襲い来る魔王軍。ここは最前線、学術都市。現実は非常である。決死のチュートリアルが始まった。

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