第13話

 目を覚ましたエリスは再度寝ようと目を閉じた、待てや!


「エリス?起きてるのは見たぞ」

「……」

「起きてるのはわかるぞ?」

「……」

「エリス」

「……寝てますよ……」


 寝てるやつはそんな返事しねぇよ!いや、落ち着け落ち着け……怒るのは逆効果だ、優しく優しく……


「エリス、気絶したな?」

「ヒッ!!」


 思わず怒りが出てしまった、いや本当に右手疲れたし寝たふりで逃げようとしたからイラッとしてたわ。


「エリス、おいでほら、エリスは悪くない、悪くないよ」

「本当……?」

「本当だよ、本当」


 同じ言葉を2回続けて言うことで安心させるってやつ嘘だと思ってたけどエリスには聞くみたいだな。


「わ、私……どうしてたの……?」

「気絶してたよ、始まった直後に」

「……大丈夫だった……?」

「エリスの手を使って勝手に手を振っといたよ」


 表情がぱあっと明るくなったな、王都でも俺に振らせようとしてるか?流石に問題が起きなかったことだと思うけど。


「それで王都に行くんだけどいつ頃がいい?」

「王都?」

「王都のパレードがあるだろ、今から行くか少し休むかどっちがいいかって話」

「……」


 あれ?気絶したか?おーい、おーい!


「!!」

「別の日にするか?」

「う、ううん行こう……パレードって……中止に……」

「できないだろ」


 死刑執行前の囚人のような落ち込みようでエリスは支度をし始めた。マクイラさんとハスルグさんに伝えてくるか……。


 別室の扉を開けると死刑執行前の囚人のような二人が向かい合っていた、今日って死刑執行日だっけ?今日だけで3人目見たぞ。


「ああ、クロ様……勇者様は……」

「今支度中です、今日行くと」

「わかりました、準備いたします。私と行けば城の中に転移できますから」

「では私は大聖堂の仕事に戻ります」


 マクイラさんが去ると真面目な表情でハスルグさんは向かい合い口を開いた。


「勇者様はあれで戦えますかね?」

「村にいた頃は小さな魔物を狩ってましたけど……」

「なぜ……ああなるのでしょうか?覚えは?」

「さぁ……目立ちたくないのでは……?初めてあった時もあんな感じでしたよ」

「王都のパレードはどうにかなるでしょうか……?」

「無理ですね、同じ結果かと」

「では民の前で演説や手を振るなどは」

「不可能ですね」

「そうですよね……」


 大変そうだね、ハスルグさん。俺にできることなんてないよ?


「クロ様は勇者パーティーのリーダですよね?」

「えっ?ジョブなしですが」

「勇者様にリーダーができるのですか?」

「しかし……他にメンバーが加わればお約束のように私は用済みにされるのでは?」

「他のメンバーが常にジョブがあったわけでもありませんし、そんなことをしていたら誰も魔王を倒しに行きませんよ……」

「倒した後では……?」

「他国でよっぽど傍若無人な振る舞いでもしない限りはそうはなりませんよ……そもそも他国で受けが良かったら逃げられるじゃないですか」

「確かに……」

「評判が元から悪いならともかく普通か良い人間を謀殺したら国自体の評判が落ちますし……」

「そう考えると一番まずいのは……」

「会話をしない勇者様の評判が悪くなるかもしれませんね……」


 悪いやつじゃないんだけど、ただちょっと陰キャなだけなんです!仲良くなればちゃんと話します!村ではもう少し流暢だったんです!とオブラートに包んで説明するも詐欺師が喚いてるなぁみたいな目で見られた。


「本当ですかぁ?クロ様、別に私は疑ってるわけではないんですよ、ただ……ねぇ?」

「仲良くなったり自分の縄張りではちゃんと普通になりますよ、ここは自分の縄張りがないだけで……」


 こうして考えると野生動物みたいだな……同じようなもんか。

 エリスがのそのそ支度をする間、俺はハスルグさんに嘘つきを尋問するようにチクチクと痛いところを突かれ続けた。

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