暗闇でメガネが役立つたった一つの理由

吉野茉莉

暗闇でメガネが役立つたった一つの理由

 メガネは顔の一部だって誰かが言ってた。私は一日中メガネをかけてるから顔にくっついてると言っていい。コンタクトにも挑戦したいけど目によくないからって親は言うし私は迷信だと思うけど私も寝るとき忘れずコンタクトを外せるかは怪しいので今は反抗はしていない。お風呂でお気に入りのウェブ小説をスマホで読むときもかけっぱなしなのでメガネを外すのは寝るときだけだ。

 部屋には私以外に五人の女の子がいる。教室を半分こにした広さの器楽準備室には部屋割りのせいで窓がなくいつも電気をつけてないといけない。横では後輩が楽器を取り出そうと背伸びしてる。私は対角線にいるみーちゃんを見る。背が高くすらっとしていてでも細いというよりしっかりした立ち居振る舞いでいつもメガネをかけていて私は勝手にメガネ同盟と思っているけどみーちゃんは毎日のように違うメガネをかけていて私調べでは少なくとも日替わりで一週間を過ごせるくらいは持っているはずでメガネをオシャレとして楽しんでいる。今日は赤いアンダーリムフレームのメガネで他の二人と笑い合っている。みーちゃんが振り返ってこっちを見た。みーちゃんが足をこちらに向けようとしたときバチッと大きな音が天井からして部屋が暗闇に包まれた。停電だ。古い建物だから時々そういうことがある。三秒ほど経って硬質的なものが私のメガネにカチカチと当たった。ふっと唇に柔らかいものが触れる。またバチッと音がして部屋が明るくなった。目の前には一歩の距離にみーちゃんがいて両手を後ろ手で組んで楽しそうに上半身を揺らしていた。

「急にそんなことしないで」と膨れた私にみーちゃんは意地悪そうに笑った。「だってタイミングよさげだったし」「間違えたらどうするの」「私がよーちゃんを間違えるわけないじゃん」みーちゃんは自分の赤いメガネのツルを叩いてそれから手を伸ばして私の黒縁のツルに触れた。

 今日はメガネをかけたまま寝てみようかな。

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