第13話 PQ3182Z-アロナ

暗黒女神プリンセス・ヘラロマンス丸・ブリュンヒルデお姫様(仮)は今日も快適な空の旅をしていた。1週間の旅を経てようやく砂漠の旅が終わり、大きな川に沿って東に向かっていた。


「ノア見て!大きな木があんなに生えているよ!」


「うお!でけぇ!どうなったらあんなにでかくなんだ!?」


エムザラが指さした方には山のように大きな木が何本も生えていた。生えている葉1枚1枚がこのブリュンヒルデ程の大きさがある。あれだけでかい森にはどんな生き物が居るのだろうかとエムザラとノアが盛り上がる。だが、アークだけは身震いする。


「想像しただけで恐ろしいわい!さっさと離れるぞ!」


その言葉でブリュンヒルデは加速する。ノアとエムザラが後ろの窓から先程の森が離れるのを見ていると木々が揺れ、何かが顔を出した様に見えた。2人が驚き、アークの元まで駆け寄る。


「アーク!何か顔出したぞ!!」


「大きなトカゲだよ!僕あんなの見た事ないよ!」


アークが急いでスイッチを押し、後ろの映像を窓に出す。アークが口を開き、困惑する。


「な…あれは恐竜じゃ!古代に絶滅した生き物が未来の地球で復活か。何とも皮肉な話だな…」


アークが1つ溜息をつき、更にブリュンヒルデのスピードを上げ大きな森は見えなくなった。


それからしばらく進み、日が陰ってきた頃、先の方に大きな建造物が見えた。それを見たノアが声を上げる。


「ガラスの塔だ!もう着いたのか!?」


「何じゃ?ガラスの搭?お主の居た座標はまだまだ先じゃよ」


アークがハンドルを握りながら、ノアに顔を向ける。ノアは自分が居た場所にも同じ建造物が近くにあった話を2人に話した。アークは少し考え、ブリュンヒルデを止める。


「今日はこの位にして明日あの建物に行ってみるのじゃ。あれが人工物である以上、何かしらの痕跡があるかもしれん…それに少し気になる事もあるしのう…」


「了解!アークちゃん、食べのもどうする?何か狩って来ようか?」


「そうじゃな。備蓄も無限ではないからのう…危険じゃが行くかのう」


3人は狩りの準備をしてブリュンヒルデから降りる。するとブリュンヒルデが陽炎のように揺らめき見えなくなる。


「本当に見えないね」


「すげー!触ると違和感あんな!」


ノアがブリュンヒルデを手で何度か叩くと波紋が広がるように景色が歪む。


「うむ。光を屈折させているだけじゃから、大した技術ではないが何かと役立つじゃろう。さて行こうかのう」


アークがセンサー域を広げ、生き物を見つける。それをエムザラが銃で撃ち落とす。そして荷物持ちはノアの仕事だった。


「肉重いっ!俺も銃撃ちてぇ!」


「ノアはもう少し上手くなったらね?荷物半分持とうか?」


「大丈夫だ!エムザラは銃も持ってるし、荷物持たせる訳にはいかね!」


エムザラはえへへと笑い嬉しそうにする。今までひとりでやってきた事を皆で役割分担するのが嬉しいのだろう。ノアはエムザラの笑顔を見て瞳がピンクに染まり、目があったエムザラも笑顔のまま顔を赤らめる。


「止まるのじゃ」


アークが声を潜めしゃがみ込み、2人も続いてしゃがむ。何かが来ているようだ。地響きが木々を揺らし大きな音が聞こえてくる。数十m先で人影が走り抜けていく。その後を大きなトカゲのような生き物が木々を薙ぎ倒しながら追いかけて行く。そこからのエムザラは速かった。銃を構え、トカゲの頭に緑の閃光を撃ち込む。確かに頭を閃光が突き抜けるがトカゲは倒れず、こちらに頭を向ける。片目は緑の閃光で無くなっており、ボタボタと血を流し狂ったようにこちらに向かってくる。


「出力が弱かったよ…次は殺す…」


エムザラが銃の摘みを捻り、出力を上げ数える。


「1…2…3…バースト」



緑の閃光が辺りを一瞬覆い隠し、空気が焼ける臭いが辺りに広がる。大きなトカゲの頭は跡形も無くなり3人の前に転がる。


「いやビビったぜ!相変わらず、すげー腕だなエムザラ!」


ノアがエムザラを褒めると爽やかな笑顔で「君に褒められると僕も嬉しいよ」と返させる。


「さっき逃げていたのはまさか人間かい?」


エムザラの質問にアークが首を振る。


「違うじゃろう。センサーに反応はなかったからのう…恐らく」


先程の人影がゆっくりと近づいてくる。フードを被り、黄色いレインコートを着てるように見える。フードを外し顔を出す。人間の女性の顔がそこにはあった。金髪に長い髪、青い瞳がこちらを見つめ口を開く。


「안녕하세요」


「何じゃ?韓国語かの?」


アークのその言葉で金髪の女性はハッとして頭を下げる。


「失礼しました。日本の方でしたか」


「厳密に言えば違うのじゃが…わしはお主と同じくAI搭載のアンドロイドのアークじゃ!」


「そうでしたか。そちらのお2人は人間ですよね?」


エムザラが頷き、ノアも一応頷くとその金髪アンドロイドはノアとエムザラに近づき2人を抱きしめる。


「やっとお会い出来ました」


「ちょ!何すんだ!」


「え!え?」


ノアとエムザラが困惑する。ノアの顔が金髪アンドロイドの大きな胸が埋まり、瞳が赤くなる。


「まずは助けて頂きありがとうございます」


アンドロイドが2人から離れ頭を下げる。ノアは一瞬だがアンドロイドの胸の谷間に目が行き逸らす。エムザラがノアを睨む。


「な、何だよ…」


「別に何でもないよ」


エムザラが目を細めノアを睨んだ後に自分の決して小さくはない胸に目を落とし溜息を吐く。ノアは何かを言おうと口を開きかけるが辞めておいた。


「人間がまだいらっしゃって驚きです。皆も驚くと思いますよ」


金髪アンドロイドが微笑む。


「まだお主の様なアンドロイドが居るのか?」


「はい。私達は人間達が宇宙に旅立つ際に置いてかれたアンドロイドです」


ノアの瞳が青くなりアンドロイドに質問する。


「お前は置いてった人間達を恨んでるか?」


「まさか!人間達は危機的状況でした。私達を置いていく選択は合理的と言えます。それに私達は人間を助ける為に生まれました。宇宙で彼等が生きているのであれば私達はいいのです」


「そっか…名前なんて言うんだ?」


「名前ですか?PQ3182Z-アロナです」


「ピーキュー3…アロナか!よろしくな!俺はノアでこっちがエムザラにアークだ!」


アークとエムザラが「よろしくね」「よろしくなのじゃ」と挨拶をする。


「アロナ達はあのガラスの搭に居んのか?」


「ガラスの搭ですか?転移装置の事でしょうか?私達はその周辺でコロニーを形成しています」


「あれは転移装置だったのじゃな。ひとまず、暗黒女神プリンセス・ヘラロマンス丸・ブリュンヒルデお姫様(仮)に戻るのじゃ」


アークの言葉にアロナの顔が固まる。ノアは目を瞑り頷く。


「わかるぞアロナ…そんな変な名前の物がどんな物なのか想像も付かないよな…」と心の中でノアは思う。


4人はブリュンヒルデに戻り、簡単に事の経緯と現在向かってる場所をアロナに説明する。


「そうでしたか!ノアさんは宇宙に旅立った人達の子孫なんですね!」


アロナはノアの手を取ってブンブンと振る。


「良かった…良かったです…無事に帰って来れたのですね…博士…」


アロナは涙を流し、アークが片眉を上げる。


「お主は人間に作られたのかの?人間達が旅立ち相当な年数が経っているはずじゃ。お主は一体どれ程の年月を生きておる?」


アロナは手で涙を拭き答える。


「私が博士に作られて数千年は経ちます。度重なるアップデートと修正で昔の記憶は曖昧になってきていますが、私達が人間に作られたのは確かです。そして…私達は宇宙に旅立った人達の帰りを待っていました。ノアさん…貴方達が帰って来てくれて本当に良かった…」


「俺は何も知らねぇけどよ。こんなに広い宇宙を旅して偶然帰って来るなんてすげー話だよな!しかもアールなんとかかんとかの耐性まで獲てよ!」


アークが驚きノアを振り返る。


「偶然じゃと?そんな事ある訳なかろう!宇宙がどれ程広いと思っとる!お主らはどういう経緯で地球に辿り着いたのじゃ?」


ノアは首を捻り思い出す。


「確か…先生が言ってたな…たまたまこの辺の銀河を旅してたら…電波を受信したとか何とか…」


その言葉にアロナが興奮する。


「きっと私達が放ってる電波ですよ!あの転移装置は人間達が旅立った後に建てたもので世界中に設置したんです。それも何百年も掛けて!そして各地の転移装置の塔の先から、人間達に向けてメッセージを送り続けていたのです!」


アロナは更に興奮し話し続ける。


「やっぱり私達の行いは無駄じゃなかったんだ!ちゃんと伝わったんだ!良かったです!!」


アロナはノアにまた抱きつき飛び跳ねる。飛び跳ねる度にノアの頭に胸が当たり、ノアは顔も瞳も真っ赤に染まる。それを見たエムザラがアロナを引き剥がす。


「ダメだよ!ノアが苦しそうだよ!」


「コレは失礼しました。つい興奮してしまいましたよ!所でずっと聞きたかったのですが日本語を話されている所を見るに日本から出発されたブルーラインの方達ですよね!?岡村博士も乗って居たと思うのですが知ってますか?私を作ってくれた岡村博士です!」


アークが絶句する。そんな訳は無い。岡村博士は過去で死んでしまったのだからと。それに自分以外のAI搭載のアンドロイドを造った事はなかったはず。一体どう言う事だろうか。

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