クールなめがね係長が何故かお昼のおかずを分けてくれる件

蒼田

コンタクトの人がめがねをかけると印象が大きく変わる

 会社のデスクを横切り昼休憩に向かう。

 会社に来る前買ってきたコンビニのおにぎりを白く丸い机に広げると正面に気配を感じ取る。机に出来た影から目を離しゆっくりと目線を上げると黒いスーツが目に入る。徐々に顔を上げると巨大な双丘が目に映り俺は頭に強い衝撃を感じた。


「いってッ! 」

「どこを見ているのですか」


 目に涙を浮かべながら瞳を上に向けるとそこには拳を握った黒髪をポニーテールに結った女性がいた。

 猿渡係長だ。


「暴力反対……」

「いやらしい目線を私に向けるのがいけないのです」


 言いながら椅子を引き正面に座る。

 まだ頭が痛い……。

 少しは手加減して欲しい。


「……貴方、今日もコンビニのおにぎりですか? 」


 係長が呆れながら指摘する。


「……美味しいんですよ? コンビニのおにぎり」

「明らかに栄養が偏っている食事。これだと晩ご飯もコンビニと想像できます」

「はは、係長。舐めたらいけませんよ? 」


 笑いながら言う俺に係長が眉を寄せる。

 自分で稼いだお金を自由に使える男の一人暮らし。

 本当に舐めたらいけない。


「外食するので栄養が偏ることはありません。栄養が偏るというのならば、ちょっとおしゃれなサラダメインのお店を選べばいいだけです」

「……呆れてものが言えませんね」


 係長が溜息をつきながら顔に手を当てた。

 ん? ……んん??


「あれ、係長。眼鏡でしたっけ」

「大変不甲斐ない話ですが、今日はコンタクトレンズを不足していまして」

「ハードをなくしたんですか? 」

「いえ、会社に来る時以外は眼鏡なのでソフトのデイリーです。何回も無くしたのが痛かったですね。一生の不覚、です」

「えらいダメージの少ない一生の不覚ですね」


 本当に落ち込んでいるのか係長は僅かに下を向く。

 係長、コンタクトをなくしたのか。

 小顔な彼女にちょっと大きめな長方形の黒い眼鏡。

 なんで会社に眼鏡で来ないのかわからないけれど、これはこれで――。


「似合ってると思いますよ」

「ッ?! 」


 いつもと同じく無表情だった係長が驚いたような表情をする。

 いきなりそんな表情をされると俺も驚くね。

 少し口をパクパクと開けたと思うと「こほん」と軽く咳払いをしてこちらをみた。


「いつも違う所を褒めるとは……貴方は中々に遊び人だったようですね。いえ見た目通りではありますが」

「酷い言われようだ」


 褒めて貶されるとは中々に酷い。


「仕方がないのでお礼に私のおかずを譲ってあげましょう」

「お、マジですか?! やりぃ! 」


 係長がおかずを一品俺に渡す。

 言葉に甘えて受け取った。

 機嫌がいい時貧相な食事をしている俺に係長は弁当をわけてくれる。

 これを自分で作っているというのだからこの人は超人か何かだろう。

 超人さまのお恵みを貰えるのだから、俺は当分コンビニのおにぎりでいいかもな。


 いつも無表情で規律然としている係長。

 だけど眼鏡をかけた係長は、どこか可愛く見えた。

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クールなめがね係長が何故かお昼のおかずを分けてくれる件 蒼田 @souda0011

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