幼女探偵エマ~消えた眼鏡の謎を追え!~

@kumehara

第1話

「あれ? 母さん、俺の眼鏡知らない?」

「眼鏡? 知らないわよ」


 とある平日、午後七時過ぎ。リビングでおやつを食べ、そのままテレビを観ていた小学二年生の啓太けいたは、自分が愛用している眼鏡が見当たらないことに気が付いた。夕飯の支度をしている母親にも尋ねたが、知らないらしい。


「おかしいな、学校から帰って来た時は絶対あったのに。おやつを食べてた時は……あれ、どうだったかな……」

「ふっふっふ。おこまりのようですね」

「お、お前は……!?」


 自分の行動を振り返りながら思案していると、リビングと廊下を繋ぐ扉の向こうから、小さな人影が現れた。


「そんなときは、このビショージョたんてい・エマにおまかせあれ!」


 ビシッ! と啓太を指さしているのは、今年で五歳になる妹の絵麻えまだった。得意げな台詞から察するに、最近ハマっている探偵ごっこを始めるようだ。ご丁寧に、探偵服を模したパジャマでコスプレまでしている。


 開けたら閉める、という言い付けを守ってしっかり扉を閉めると、絵麻はリビングをペタペタ歩き回りながら推理を開始した。


「おにぃがガッコーから帰ったときは、メガネをかけてました。でも、今はないです。つまり、シボースイテイジコクはゴゴゴゴジから今までのどこか!」

「午後五時ね。『ご』が一個多いよ。あと、俺は死んでない」


 完全に、母親の好きな俳優が出ているサスペンスドラマに影響されている。うんざりしつつも、ひとまず聞いてやることにした。夕飯までの暇つぶしだ。


「おやつのあと、おにぃはメガネを外して、ふいていましたが、でんわがかかってきたので、出ましたね」

「そうだね。母さんは手が離せなかったから」

「でんわのあと、メガネはありましたか?」

「あ……そう言えば、友達との電話で盛り上がって、眼鏡の存在忘れてた。戻って来てからそのままテレビを観始めちゃったんだ」


 意外と鋭い。被害者(?)である啓太の行動をよく観察している。横で一緒におやつを食べ、一緒にテレビを観ていたのだから、当たり前なのかもしれないが。


 台所から、良い匂いがしてくる。夕飯の支度ができたのだろうか。なら、そろそろ潮時だ。


「そのあいだ、リビングにいたのはママとエマだけ。だれも来てないし、出てません。これはむずかしいミシツサツジンなのです……!」

「出入り自由な密室かぁ。と言うか、それだと絵麻が一番怪しいんじゃないの? 母さんは手が離せなかったんだし」

「え」

「それで? 兄ちゃんの眼鏡、どこにやったの?」

「うぅ……」

「もう遊んでやんないよ?」

「う、うぅぅ~……!」


 啓太が優しく詰め寄ると、自称・美少女探偵は泣きそうな顔でおもちゃ箱を指さした。中を漁れば、探していた眼鏡ケースがあっさりと見つかる。中身も無傷だ。


「どうして、隠したりしたの?」

「……だってぇ、おにぃが構ってくれないからぁ……」

「おやつもテレビも一緒だったじゃん。仕方ないなぁ。ほら、一緒に夕飯食べよ。おかずちょっと分けてあげる」

「ほんと!?」


 母親の手で、食卓に夕飯が並べられていく。今日は二人の好きなエビフライだ。


 迷宮入りかと思われた眼鏡失踪事件は、こうして無事に幕を下ろしたのだった。

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