第4話 未来からの逃避

 あれから、オレは再就職活動もめ、部屋に閉じ籠もっていた。優綺ゆうきちゃんと智子ともこさんにも出来る限り顔を合わせないように、外出も深夜のみにしていた。


 しかし――


 ガチャリ


「こんばんは、坂上さん。こんな深夜にお買い物ですか?」


 外出しようと外に出ると、智子さんが立っていた。


「最近、お顔を見掛けなかったので、優綺と心配していたんです」


 本当に心配そうに表情を曇らせる智子さん。

 オレは、智子さんを無視してアパートから出ていこうとする。


「わ、私たち、何か坂上さんを怒らせるようなことをしましたでしょうか?」


 智子さんがついてくるが、オレは無視を続けた。


「ごめんなさい、ごめんなさい!」


 何で智子さんが謝るんだ! 何で……

 智子さんを振り切るようにオレは走った。


「…………! ……! …………!」


 智子さんを引き離し、彼女の声が小さくなっていく。

 オレは走りながら、声にならない嗚咽を漏らしていた。


 もう引っ越すしか無い。

 優綺ちゃんと智子さんの心の重荷にもなりたくない。それに――


 血まみれの優綺ちゃんと、顔を歪めて泣いている裸の智子さんの姿が鮮明に脳裏に浮かぶ。


 ――ふたりを守るためだ。遠くへ、ずっと遠くへ引っ越そう。もう二度とふたりと会うことのないように。


 それでもダメなら、オレが先に死ねばいい。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る