第16話

その日の夜は、中々寝付けずにいた。元々寝付きは良い方だが、今日は眠れない。

窓から外を見るが、太陽が昇るまでかなりの時間がある。

履物に足を引っ掛け、寝間着姿のまま外に出る。

冬が近付いている時期だからだろうか、風が冷たい。羽織りを持って行けば良かったと後悔する。

鳥居のところまで歩き、外を見る。麓の村は見えないが、遠く続く道を見ていた。途切れることのない道をずっと、、、。

灯篭の明かりが道を照らす。今なら少しだけ外に出られそうだ。じっと足元を見る。鳥居をくぐれば待ち望んだ外に行けるだろう。

どうしようか迷っていると、後ろからカタクリが歩いてきた。手には提灯を持っている。

「外を、見ていたのか?」不思議な声音こわねだった。

「うん、、、」

ぼんやりと灯篭の火が照らす山道を歩けるなら、どれ程幸せなのだろう。

「帰ろう?私、眠たくなっちゃった」

「、、、、」

でも、カタクリの側にいられるなら、今はこのままで良い。

「あのね、カタクリとお父さんとの会話、少し聞こえたんだ」

「、、、そうか」

不機嫌そうにも、悲しそうに見える。でも、何時も通りの顔だ。

何だかとても、ほっとした。

お父さんはずっと私のことを邪魔だと思っていたのだろう。お父さんと一緒に村に行っても、私を生き神として祀るのだろう。

カタクリの伸ばした手を繋ぎ、摂社に戻ると行灯に火を灯した。辺りが明るくなる。

「アンズが眠れるまで、何か話すか?」

きっと、私に気を使っているのだろう。

「あのね、、、外を見た時、心臓の音が聞こえたの。走った訳でも、緊張していた訳でもないのに、、、ずっと続く道を見ていただけなのに」

「、、、、、、」

「私は、、、何を選べば良かったの?」

「男が言っていたことを気にしているのか?」

「お父さんが、言ってたの、、、。子供は実の親と暮らすのが一番の幸せだって、、、でも」

お父さんに手を引っ張られた時、怖いと感じてしまった。

「自分でも我儘っていうのはわかってる、、、。家族に会いたいと願ったのは私なのに、、、」

「人はどうあろうと我儘だ」

「!!」

「、、、お前が何かを選べばある者は正しいと言うし、ある者は正しくないと言う。それは別に悪いことでもないし、お前には決められないとこだよ」

カタクリは目を閉じ、また目を開けた。

「だから、本当の意味で正しい選択というのはないんだよ。自分が正しいと思ったことをすれば良い」カタクリは優しく微笑んだ。

「カタクリはずっと、この山にいるの?」

「オレがこの山から出ることはない」

「そっか、、、」

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