カクヨム襲撃事件

@2321umoyukaku_2319

第1話

 犯人グループがカドカワBOOKS編集部を襲撃したのは二〇××年×月×日午前十時半頃だった。警察への通報は、その直後だと思われる。通報者はKADOKAWAグループの小説投稿Webサイト『カクヨム』に所属する同社の社員だった。警察に残る通話記録によれば、その通報者の上司と面談していた数名が武器を取り出し社員たちを脅迫しているので直ちに来て欲しい、とのことである。巡回中のパトカーと最寄りの警察署からの応援が現場へ急行した。

 現場の住所に警察が到着したとき、既に周囲は騒然とした雰囲気に包まれていた。カドカワBOOKS編集部が入っている建物から逃げ出してきたと思われる会社員たちが怯えた表情で何事かを話し合っている。泣いている女性社員の姿も見られた。何人かは、ビルの上の階を指で示している。その指差す先で事件が発生したのだ。

 警官たちが現れると、その場にいた人々の中から、一人の男性が進み出た。男は緊張した顔で警察に話を始めた。武器を持った数名の人間がカドカワBOOKS編集部で騒ぎを起こしたので、怖くなって逃げ出してきたというのである。警官は、その男の他に事情を知っている人物がそこにいないか、と聞いた。詳しいことを知る者はいなかった。

 警官たちはカドカワBOOKS編集部のあるビルへ入った。ビルを警備する警備員が警官たちを出迎えた。その警備員は警察に「カドカワBOOKS編集室で暴漢が暴れている」と説明した。その警備員は、そこに勤める社員から連絡があり、そのことを知ったそうである。そして警察に通報した、と言った。それは最初の通報から数分後のことだったことが警察の通話記録で判明している。

 警備員は二度目の通報者だったが、最初の通報内容以上のことは知らなかった。彼はビルに事態を重大視し、全館に緊急放送を流して避難を呼びかけていた。それから警備員は避難者を誘導しながら、入り口で警察の到着を待ち、現れた警官たちに知る限りの事情を説明したのだった。

 警官らは三つに分かれた。一人は入り口で待機、もう一名は非常階段を警戒、残りは警備員の誘導でエレベーターに乗りカドカワBOOKS編集室のある階へ向かった。

 カドカワBOOKS編集室に入った警官らが目にしたのは、ナイフを持った男性三名と日本刀を持った女性一名が部屋の一角にKADOKAWAグループ社員らしき人たちを正座させ説教をする光景だった。

 刃物で武装した四人組は、部屋に入ってきた警官たちの姿を見ると、一斉に武器を捨て投降した。現行犯逮捕された犯人らは警察署での取り調べで犯行理由を述べた。『カクヨム誕生祭2024 ~8th Anniversary~』という記念のイベントで開催された『『KAC2024 ~カクヨム・アニバーサリー・チャンピオンシップ 2024~』の八回目のお題「めがね」が気に入らず、その抗議のために犯行に及んだ、というのである。

 犯人の一人は語った。

「漢字の眼鏡では駄目、カタカナのメガネも許されない。そんなのって、あるかよ? おかしいだろ!」

 別の犯人は言った。

「平仮名。小学生じゃあ、あるまいし。なめるな」

 女の犯人は苛々した様子で自分の心境を説明した。

「意味ありげに平仮名にしてっけどさ、中身なんてないと思う。それならさ、どうだっていいじゃん! だから説教してやったんよ。悪い? それが悪いってんならさ、あたしに説明してよ。ひらがなで!」

 涙ながらに自供した犯人もいる。

「悪いとは思った。でも、平仮名で<めがね>と書かれると、何だかストレスを感じた。その単語を、直接使わなくてもいいとは考えたけど、何か編集部からの求めとは違うんじゃないかって、考えすぎて。それで、カクヨムで知り合った投稿仲間に相談したら、皆も同じように思っていて……そして皆で抗議しようと決めて。でも、誰かを傷付けようなんて思っていませんでした。信じて下さい、お願いです!」

 悪質な犯罪に手を染めた素人小説家たちは自分たちが不起訴になると考えていたようだが、検察は犯人グループの身勝手な凶行を許さず起訴する方針を固めた。犯人らは自分たちの罪の重さを誤算したのである……ち、ちょま、ねえ、ちょっと待って。その結果は犯人たちの眼鏡違いだった、に変える。こっちの方が良い。

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