【KAC20248】視力がいいとメガネって憧れますよね。

姫川翡翠

東藤と村瀬とドライブ

「おいおい東藤、大丈夫なんか? さっきからなんかフラフラしてるぞ」

「大丈夫か大丈夫じゃないかで言えば、大丈夫じゃないな」

「なんでやねん」

「いやさぁ、メガネかけ忘れて全然見えてへんねん」

「は!? 馬鹿野郎! そんな奴が運転すんな! 今すぐ代われ!」

「ここ1年で急にめちゃくちゃ視力落ちてさぁ。だから別に違反があるわけじゃないんやで? 免許に制限ついてないし」

「え、そうなん?」

「うん」

「じゃあええか……とはならんぞ。お前全然見えてへんねやろ?」

「まあ。春の健康診断の時、左右それぞれ0. 2くらいやった」

「やばすぎやろ」

「でも両目なら0. 5くらいあるんやで? すごくない?」

「すごくないわ! 死ぬ気か!?」

「ちゃうねんちゃうねん、メガネはあるんやけど鞄に入れっぱなしで、いま村瀬に言われて初めてかけ忘れてることに気が付いてん」

「そんなことある? ……鞄? どれ?」

「後部座席のやつ」

「——これか」

「そうそう」

「はい」

「おうサンキュー。これで一安心ですな」

「というか、東藤ってメガネかけなあかんほど目悪かったんやな。いつの間にそんなんなってたん?」

「あれよ、1回生の頃は東藤君の絶望期で、大学ではずっと1人で本読んで過ごしてたって言ったやん? たぶんその影響で去年くらいから一気に目ぇ悪くなってな。だから講義とか運転とかそういう場合には必須になってしまったんやけど、でも日常生活には別になくても不自由ないし普段はかけてない」

「あー」

「日常生活的にはあれやな。他人の顔が全然見えへんだけ」

「それ結構支障ないか?」

「いやいや。むしろ割といいことばっかりよ。対面で話すときとか緊張せーへんし、周囲の視線とかも気にならへんし」

「なるほど?」

「あと、シンプルにメガネ似合わへんねん」

「そうか?」

「あまりにも知的過ぎて」

「発言が馬鹿すぎるんやけど、知性どこ行ったん?」

「ほらここに」

「メガネが知性の100%を担ってるんやけど」

「だから言うてるやんメガネが知的過ぎて、俺みたいなアホ面には似合わんて」

「……なんかかみ合わへんと思ったら。冗談やったのに自虐で返されるとなんも言えんくなるからやめへん?」

「なんでやねん」

「普通に似合ってると思うで」

「ありがとさんです」

「僕もなぁ、一時期メガネ憧れてたんやけどな」

「やめといた方がいいで。正直普通に邪魔なだけ」

「僕もそれを理解したから全力で視力守ってるわ。いつも遠くの緑見てる」

「実際、目ぇ悪いって普通に障がいやからな。メガネとか無くすと外歩けなくなる人とかもいるみたいやし」

「ホンマそれな。小学生からメガネの子ら大変やったんやなって。というか、メガネが嫌ならコンタクトにしたらいいやん」

「無理」

「なんで?」

「目にいれんの怖いから」

「かわいこぶんなや」

「ぶってへんわ」

「だいたい今どきレーシックだとかなんだとかの時代やのにコンタクト怖いとか時代遅れ過ぎやろ」

「でもさぁ、メガネ屋が今でもたくさん残ってるのって、つまりはそういうことやろ?」

「まあ」

「しかもレーシックってあれやろ? プロ野球選手とかレーサーとか、とにかく素の視力が良くないとできない人たちがやるやつやろ?」

「そうなんかな?」

「知らんけど」

「今日のドライブの帰りにメガネ見に行かへん?」

「別にええけど、なんで?」

「お前に似合うメガネ僕が選んであげるやん」

「村瀬が? センスなさそうやしなぁ」

「ええやんけ」

「まあ、俺よりマシやもんな。ほな頼むわ」

「うん」

「じゃあとりあえず、このまま海まで行こか」

「事故らんように」

「約束はできない」

「うん、やっぱり僕と運転代わろっか」

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【KAC20248】視力がいいとメガネって憧れますよね。 姫川翡翠 @wataru-0919

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