想いと呪いは紙一重

クククランダ

第1話 プロローグ

〜9月9日15時頃〜


「……」


 雨が降っている。俺は雨が大嫌いだ。あの日と同じだから。父さんが俺を化け物と罵り、自殺した時と同じ雨の日。俺は今日、母を失い天涯孤独の身となった。母は、精神的な病気になっており、もう俺が誰かすら分かっていなかった。

 それでも、俺は毎日病院に通い続けた。俺のたった1人の家族で1番の大切な人だから。けれど母の最期の言葉は俺という人間を殺すには充分なひと言だった。


「あんたなんか生まれてこなければよかったんだ」


 その言葉を最期に母は死んだ。俺は家族を失った悲しみと、最愛の家族に吐かれた心無いひと言で生きる希望を失った。気づいた時には病院ではなく、雨に打たれながら近くの川を眺めていた。

 雨のせいで人が入れば助からないほど川は荒れている。俺は川を眺めながら色々な事を思い出す。なんで父さんは俺を化け物と罵ったんだろう。なんで母さんは最期にあんな事を言ったんだろう。なんで俺は、愛してもらえなかったんだろう。


「ぐっ…」


 胸から何か込み上げてくるものがある。雨のせいで涙なのかもわからない。

 俺は物心ついた時から愛してるなんて言われた事はない。父も母も俺を放置して、家にいることはほとんどなかった。

 でも俺は褒めてもらいたくて家事をたくさん覚えた。撫でて欲しくて勉強も頑張った。抱きしめて欲しくて2人が帰ってきた時にプレゼントも頑張って作った。

 けれど俺の願いは何も叶わなかった。

 そして俺は1つの結論に辿り着いた。


「多分、あの人たちとは血は繋がっていたけど、家族ではなかったんだな」


 俺は、多分生まれた時から1人だったんだ。家族なんかいなかった。

 俺の今までの人生に意味はあったのか?これからの人生に意味を持てるか?そんな考えが頭をよぎる。


「もう、無理だ」


 そして俺はゆっくりと川に近づいて行く。もう限界だった。もうこれ以上生きる事に何の希望も持てなかった。だから死ぬ事を選ぶ事にする。


「叶うなら、今度は家族と幸せに暮らしたい」


 俺は最期の願いを口にしてゆっくりと歩き出して川に入っていく。まだ温かい気候が続いているから寒くはない。そのまま俺は足を取られて川の中に沈んでいった。

 川の中は冷たくて苦しくて、暗かった。けどもうこれ以上何も考えなくて良い。これで俺の人生は終わったんだから。

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