羽休め パート6

!~よたみてい書

第1話

 私は現在、山の上で空中散歩をしている。

そこに知らない男性に声を掛けられた。


 彼は私と同じくらいの年齢に見える。

実際は分からないけど。

両翼から生えているバデュームの翼は白くて綺麗だ。

私のより若干大きいような気がする。


 彼が私が何をしているのか尋ねてきたので、素直に答えた。

彼は眼下の山々の見渡しながら言う。


「え、どうしてこんなところで?」


 理由なんてない。

ただ、気持ちよさそうだったから。

一瞬、理由を考えようとしたけれど特に思いつかなかったので、そのまま告げた。


 彼は一瞬苦笑いを見せた後、語る。


「自由に空を飛び回るのも気持ちいいもんね。でもそんなこといつでもできるでしょ、飽きない?」


 彼は罪悪感無く質問してきた。

私は桃郷とうきょうからここに来たことを告げる。

彼は一瞬言葉を詰まらせた。


「えー、桃郷から!? わざわざこんな田舎までどうしたの?」


 仕事の疲れを取ろうとした。

そんな簡素な動機を彼に告げる。

彼は腕を組みながら左上の空を見上げた。


「……そうだなぁ、よし、俺がとっておきの場所に連れてってあげるよ」


 彼はサッと私に近づいてきて、右手を掴んでくる。

彼はどこか遠くに向かって両翼を羽ばたかせながら宙を移動していった。

私の体も彼に引っ張られ、強制的に彼の後ろを飛行するはめになった。

手を振りほどくこともできたけど、なぜか体はこの状況を受け入れていた。




 数分後。

私はとある建物の数メートル前のベンチに座っている。

その建物は『鳥のおもてなし』という看板が掲げられていて、どうやら店のようだ。


 鳥梨チョウリと名乗った彼は店のカウンターからこちらに戻ってくる。

彼の両手には何か丸みがかったものがあった。


「はい、これどーぞ。おいしいよ」


 私は彼に手渡された何かを受け取る。

薄茶色の容器の上に、薄緑色の球体が乗っかっている。


 彼は茶色いスプーンを薄緑色の球体に差し込んでいく。


「梨アイス。食べてみて」


 私は彼に促されて、容器に挟まっていたスプーンで彼と同じようにする。


 美味しい。

甘さは抑えられていて、しつこくない。

さっぱりした感覚と冷たい感覚が邪魔をしていない。

これなら無限に食べられそうだ。


「どう?」


 私は首を縦に振って肯定する。


 彼はニコッと微笑む。


「ね? ほらほら、もっと食べて、はい、あーん」


 彼は梨アイスをすくったスプーンを、私の口元に近づけてきた。

こんな歳なのに、『あーん』なんてやれるわけない。

やるわけない。

と思っていた。

しかし体は拒絶していない。

私はいつのまにか彼のスプーンにかぶりついていた。


 冷たい。

そして美味が再び訪れる。

でも、さっきより味が違う気がした。


 彼は再び微笑んできた。


「梨アイス美味しいでしょ? 俺のお気に入りなんだよー」


 彼は今度は自分の口にアイスを運んでいた。

私も美味しい梨アイスを食べ進める。




 数分後。

梨アイスを食べ終えたところで、私のスマートフォンが軽快な音を一瞬鳴らす。


『鳥妃さん、お疲れ様です!

すみません、私たちの企画についてなのですが、炎上する要素があるので変えて欲しいとのことです。

お忙しいところ本当に申し訳ないのですが、至急会社の方までお越しいただけないでしょうか?

企画会議をすぐやりたいそうです。

文字通りすぐ飛んできていただけると助かります。

どうぞよろしくお願いします』


 鳥子さんからのメッセージだ。

緊急を要するらしい。

行かなければ。

だけど、すぐに体が動こうとしない。

ここに居続けたいと感じている。


 鳥梨さんが首をかしげながら訪ねてきた。


「ん、だいじょうぶ?」


 私は彼の顔を黙ってしばらく見つめ続ける。

そして桃郷に戻らないといけないことを伝えた。


 彼は一瞬キョトンとした顔をするけど、一回頷いた後、微笑みかけてきた。


「梨アイス、また食べに来てね」


 私は軽くお辞儀をしたあと、ベンチから立ち上がる。

それから私の背中から生えている翼をおもいっきり伸ばす。


ふわっ。


 私は自分の両翼で風を操り、北東の街々を目指す。

私は先方のお眼鏡にかなう新しい企画を立てるという目的に向かって青空の中を突き進む。

それと私の人生に、鳥梨さんとまた会うという目的が生まれた気がする。

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