第7話 カタルニアにて

 5月末、私はスペイン・カタルニアにいた。先週はベルギー、来週はイタリアと連戦だ。

 レースがあると、アカデミーは月火休みになる。移動日ということもあるが、週5日制はしっかり守られている。金曜日には移動をするので、実質、水木だけがアカデミーの講義となっている。あわただしい感はするが、レースそのものは実戦練習だからだれも文句は言わない。ただ、デビッド・トムヤンは顔を見せなくなった。ケガが思ったより重くて、母国に帰ったということだ。一人いないだけですごく寂しい感じがする。それも年長のクラス委員みたいな立場のデビッドなので、すごく雰囲気が変わってしまった。

 カタルニアはスペイン東部のバルセロナ近くにある。ここもマルケルアカデミーが強い。そして観客も多い。MotoGPの人気はすごい。土曜日だというのに10万人以上が集まるのである。もっとも消化レースのタレントカップの時にはほとんどが帰っている。

 コースは4600mほど。メインストレートは1kmあり、第1コーナーで抜きつ抜かれつが見られるコースである。でも、私は裏ストレートからの左コーナーがポイントと考えていた。

 午前の予選で、私は5位につけていた。先週のE-GP3での優勝で、周りの視線が厳しい。口には出さないがライバル心丸だしだ。特に中谷麻実は予選4位と私よりいいタイムを出している。トラブルさえなければ、自分の方が速いといわんばかりだ。予選前に中谷麻実が近寄ってきて、

「スパでは運がよかったね。でも、今日は私の番だからね」

 と言ってきたのである。

 夕方の決勝。夕方といっても、まだまだ明るい。この時期のヨーロッパは昼が長い。夜9時でもライトなしで運転できる。10時ごろでやっと暗くなったかなと感じる。寝る時には分厚いカーテンがないと明るい中でベッドに入ることになってしまう。最初は戸惑ったが、最近はだいぶ慣れてきた。

 決勝スタート。ストレートで加速し、第1コーナーは要注意だ。私はアウトに膨らんで混乱を避けた。中谷はインに突っ込んでポジションを守っている。何とか混乱に巻き込まれずに第1コーナーを抜けたが、2台に抜かれた。そのポジションでしばらく走る。私は第1集団の後ろにくらいついている。第1集団にエイミーはいない。無事に走っていればいいが・・。

 7周目、そろそろしかけてくるころだ。メインストレートで中谷麻実が先頭に出る。そこにマルケルチームの3台がおそいかかる。第1コーナーで4ワイドになっている。麻実が先にブレーキをかける。後の3台はブレーキが間に合わずコースアウトしていった。麻実が単独トップになる。私も4位に上がった。

 ファイナルラップ。裏ストレート後の左コーナーで私は勝負をかけた。インにいくと見せかけ、相手がインをおさえたところをアウトに出て、アウトインアウトのラインを守った。相手はインインアウトのラインにならざるをえない。立ち上がり勝負で私が勝ち、3位に上がることができた。

 表彰台に中谷とともに上がることができた。だが、麻実は口を開くこともなく、私に視線を向けることもしなかった。勝って当然という顔をしている。

 次戦はイタリアのイモラ。E-GP3との併催なので、麻実と私はそちらに参戦する。ライバルとの正面対決の様相だ。

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