【KAC20248】魔羊ネエネエの日々の5。

豆ははこ

遠めがねと会いたいお友達。

『おひさま、頑張って下さいですねえ』

 黒い魔羊ネエネエ、洗濯物干し。


 晴れた日は、乾燥の魔法よりもおひさまの光の方がいい。

 そう、一緒にネエネエのモフモフも、フカフカフワフワだ。


『終わりましたですねえ……おや、ですねえ』


 空になった籠を背中にのせようとしたら、ネエネエの視界に入る何かが。


『……遠めがねですねえ』


 遠めがね。

 ネエネエがお仕えする偉大な森の魔女様も作られたことがある。

 森の魔女様のご友人にして魔女様と同格であられるお二方のうちのお一方、雪原の魔女様の氷魔法で作られた溶けない氷。

 それを森の魔女様が平たく、丸くされた大小二つの氷を特製の黒い筒にはめて作られたもの。 

 それが、遠くを見ることができる、不思議な筒、遠めがねとなるのだ。


「ネエネエは遠くも近くもよく見えるから必要ないかも知れないけれどね。魔女のお茶会のときに山の魔女に頼まれて、その場で雪原の魔女に氷を出してもらったんだよ」


 魔女様に覗かせて頂いたそれは、確かに遠くを見ることができた。


 ネエネエは遠くも近くもよく見える。

 だから、『ほおほお、ですねえ』であったのだが、目よりも鼻が利く山の生きものにはとてもありがたいものだろうとネエネエは思った。


 その感想をお伝えしたら。


「そのとおり。さすがはネエネエ」 

 魔女様にそう褒めて頂き、ごきげんモフモフだった。


 そう、山の生きものには目よりも鼻のほうが利く生きものがいる。

 その生きものたちのために山の魔女様はお二方に依頼をされたのだ。


『……ガウガウとピイピイに会いたいですねえ』

 山の魔女様と雪原の魔女様のことを思い出したら、つい、友人たちのことを考えてしまう。


 ガウガウは雪原の魔女様の従魔で、凛々しい白い熊。なんと、小さいモフモフな小熊にも変化できるのだ。


 ピイピイは山の魔女様の従魔で美しい青い鷲。

 大きく羽を広げたら、成人男性よりも大きいくらいだ。こちらもかわいらしい小鳥に変化できる。やっぱりモフモフ、丸くなる。


 そして、ネエネエの、大切なお友達。

 先に開かれた魔女様方のお茶会のときには皆で魔女様をお支えしたものだ。全員が優秀な従魔であることも、皆が仲良しな理由の一つである。


 ガウガウは大きな魚を干したもの、ピイピイは新鮮な山葡萄をたくさん。ネエネエはかまどの精霊さんにお願いした特別な焼き菓子などを手土産にとお持ち頂いた。もちろん、他にも様々な品々を。


『ネエネエたちもお茶会、したいですねえ。お互いがお仕えする魔女様の素晴らしさを語り合うのですねえ』 

 なんとなく、ネエネエは遠めがねで彼方を見てみた。

 ネエネエ自慢の羊蹄は何でも持てるのだ。


『……あれ、ですねえ。ガウガウ?』

 ネエネエ、びっくりモフモフ。


 遠めがねの中では、大きな姿のガウガウが雪原の魔女様と一緒に大量の氷を用いて獣たちのための住居を作ってあげていた。

 ガウガウは、雪原の魔女様の氷魔法が生み出す頑丈で美しい氷たちを丁寧に運んでいる。


 遠めがねを目から外したら……見えない。

 もう一度ですねえ、と遠めがねをかざすネエネエ。


『え。ピイピイ? ですねえ……』

 そう、今度は、大きなピイピイ。

 浮遊魔法で空中を舞いつつ、強大な威力の風魔法を使われる山の魔女様。そのお側に付き従っていたのだ。

 山の魔女様とともに密猟者たちをこらしめているのだろう。



『……魔女様、遠めがねを拾いましたですねえ』

 森の家に戻ったネエネエは空になった洗濯物籠の中から遠めがねを取り出し、魔女様にお渡ししようとした。


「ああ、ありがとう。森にも遠めがねがあってもいいかな、と思って作ったものだ。落としてしまったのかな。それは、ネエネエにあげるよ」


『ありがとうございますですねえ。……魔女様』

「ネエネエ、どうかしたのかな」


『遠めがねを覗きましたら、ガウガウとピイピイが見えましたですねえ。不思議なのですねえ』

「……ネエネエは魔力が高いからな。遠めがねの氷に映る像が、ネエネエの見たいものを見せてくれたのかもしれないね。もしかしたら、ガウガウたちもネエネエに会いたいのかもね」

『そうなのですかねえ。だったら嬉しいですねえ。お昼ご飯の支度をいたしますですねえ』


 なんとなく、ニコニコモフモフなネエネエ。


 その様子を見て、魔女様も笑顔になった。



『ネエネエが遠めがねでガウガウとピイピイを見ていたぞ。ガウガウとピイピイは?』 

『こちらもだ。ネエネエとピイピイを見たと』

『同じです。ネエネエとガウガウです』


 その日の夜。

 魔女様方は音声を届け合う魔法の水晶で話し合いの時間を持った。


『よし。決まりだな、二人とも。三日後だ。雪原と山と森のちょうど真ん中の街の魔法店にお使いを頼むこと。翌日以降はそれぞれの従魔たちに数日間休みを与えておく。それでいいな?』

『もちろんだ』『了解しました』

 そうして、話し合いは無事に終了した。


 これは、魔女様方の大切な従魔たちにきちんとした休みを取らせるための話し合いだったのだ。


 ちなみに、山の魔女様から森と雪原の魔女様への遠めがねの依頼は、本物の依頼だ。


 ただし、遠めがねには、予備が三本。これはお茶会の席で作成済みだった。


 その三本は、魔女様たちの、愛する従魔への心遣い。


 彼らは、とても素晴らしい従魔たちだ。

魔女様方の誇りとも言える。

 だが、共通する、唯一の難点。それは、休みを与えても、ほとんど休まないこと。


 ならば、と。

 魔女様方はお茶会の席で、各々が遠めがねに高度な魔法をかけておいたのだ。


 必ず自分の従魔が拾い、そして、最も会いたいものの像を見ることができるように、と。

 あとは、魔女様方が折をみて住居の近くに遠めがねを置くだけだった。


『あの魔法店を数日貸切にしたら、お茶会でも買い物でも、お泊まり会でも、会いたいもの同士で何でもできるだろう。まあ、ネエネエの一番はわたしだろうが、ほぼ毎日一緒だからな』

『それはガウガウも同じ。まあ、あの店は従魔への敬意に溢れた店員が経営する優良店だからな。魔女や魔法使いからの評価がひじょうに高い』

『ピイピイもです! そうですね。従魔の専用お茶会空間にお泊まり会用宿泊スペース……かなりの好印象店ですよ』


 お休み作戦の成功を確信したのか、さり気なく、お互いの従魔からの自分たちへの思いも自慢し合う魔女様方。


 休みでも休まない優秀な従魔たちも、これならば。

 お茶会やお買い物、もしかしたらお泊まり会もできるお店に仲良したちを休暇付で向かわせたら、さすがに休んでくれるであろう。


『きっと、充実した休みで』  

『ますますモフモフフワフワ』

『そして、フカフカに、ですね。楽しみです』


 魔女様方は、それぞれが楽しげな表情。


 森も、雪原も、山も。


 類い稀なる魔女様と、その優秀な従魔たちのおかげ、モフモフの効果で、平和に守られているのだ。


 今日も、明日も、明後日も。


 モフモフたちがフカフカフワフワであるように。 


 それはきっと、かわらない。


 とても素敵な日常だ。





※遠めがね、は望遠鏡のことです。


※ネエネエの活躍とモフモフを応援して下さった皆様のおかげでKAC初挑戦(だと思います)にして完走をすることができました。

 もちろん、こちらが初の方、他のお話を読んで下さった皆様も本当にありがとうございます。


 魔女様方のお茶会につきましては、KAC20247投稿作、ネエネエの日々の4。に書いておりますのでよろしければどうぞご覧下さい。

 4。ではまだ名前が出ていないネエネエのお友達従魔さんたちですが、少しだけ登場しております。


 https://kakuyomu.jp/works/16818093073313584081

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