タバコの匂いでメガネを穢して【KAC20248】

ゴシ

曇るメガネは香ばしい

 2024年の3月25日、ゴシは博多駅から東京駅まで続く新幹線の中で1人窓の外を見つめる。


 東京までは約5時間ほどかかる。

 暇な時間を潰さなくてはならない。

 でも俺にはそれができない。


 時間を潰す方法などいくらでも考えつく。本を読む、音楽を聴く、漫画を読むなどなど。最終的にはやることないから寝とくなんて選択肢もあるだろう。でもゴシにはそれらが出来なかった。


「…………タバコ吸いたい」


 朝早くに電車に飛び乗ったゴシは、昨日の夜中に吸ったタバコを最後に、今日まだタバコを吸ってない状況なのだ。ニコチン切れのゴシは何をするにしてもイライラしてしまい、集中が出来ないのだ。


 イライラするなら吸えばいいと思うだろ?

 俺も新幹線の中で吸おうと思ってたんだよ。

 よく新幹線に乗る奴なら知ってたかもしれないが、今年2回目の俺は到底知らなかったことだ。

 いいか、よく聞け。今新幹線の中はな、



 全面禁煙なんだとさ!!!



 ……これは参ったよ。

 冬までは確実に新幹線の中でも吸えたんだ。

 席を立って喫煙ルームにわざわざ行ってたのが思い出される。

 だが今は違う。

 春から車両と車両の間にあった喫煙ルームも使用できなくなったらしく、俺は肩を落として席に戻ったのだった。


 タバコは臭い、健康に悪い。

 だから吸えない環境にしたい民衆の意見は理解しよう。

 しかし5時間もの間、ニコチンを摂取しないとうのは苦しいものだ。

 少数相手には冷たい世の中だ。


 そんなことを思いながらも、ゴシはまだタバコを吸いたい気持ちを我慢できていた。しかし名古屋駅に到着した途端、またゴシをタバコ吸いたくさせる出来事が起こるのであった。


「あぁ、めっちゃいい匂い」


 名古屋で途中停車する新幹線は人の乗り換えが激しく、空いていたゴシの隣にも人が座ることなった。そしてその座った人がゴシにとっては厄介であったのだ。


 タバコの匂いがする。

 名古屋駅で吸ってから来たのだろう。

 多分これはセブン〇〇ー、匂い強め。

 ああ、ああ………あああああああぁぁあぁぁアァァァーー!


 そのセブン〇〇ーの匂いは、ゴシの吸いたい衝動を掻き立てる。ゴシは微かなその匂いをマスク越しで吸いながら、東京までの約2時間を悶えながら座るのであった。



 ◇



 東京に着いたゴシは荷物をまとめ、東京駅の喫煙ルームに向かう。まだここには喫煙所があるのかと幸せを感じたゴシだったが喫煙ルームに近づくにつれて少し入るのを躊躇ちゅうちょしたくなる光景が目に映ったのだ。


「……喫煙者の箱詰め」


 俺は喫煙ルームにぎゅうぎゅう詰めになるおじさん達をそう表現する。

 タバコの灰が横につくのなどお構い無しに皆必死にタバコを蒸している。


 タバコやめようかな……なんて思うことも無く、俺は喫煙ルームに突入。

 詰め詰めの喫煙ルームで1本吸う。


 しかしゴシは5分後には次の電車に乗らなくてはならなかった。少ない時間で吸えるのはたった1本。それだけ吸ってまた2、3時間吸えない電車に乗るのはきつい。


 俺は願った、周りのおっさんのタバコの匂いが俺に集まることを。


「すいません、通してもらえますか?」


 次の電車は福島まで。

 メガネに着いた煙はどこまで匂いがもつだろう。

 煙たく曇ったメガネを履かず、俺は喫煙ルームを出るのであった。

 みんながニコチン切れで苦しまない世界を願いながら。

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