KACで全力を尽くした結果……

丸子稔

第1話 必ず賞品をゲットしてやる!

 昔から本が好きで、暇さえあればSFやミステリー小説を読み漁っていた吉田蓮は、それが高じて高校二年生になった今、『カクヨム』という小説投稿サイトで小説を書いている。


 周りは年上の者ばかりだが、幸いにも彼の作品はその人たちのお眼鏡にかない、多くの人に読まれている。


 今でこそ、そんな状況だが、サイトを利用し始めたばかりの頃は一向に読まれず、彼は何度も筆を折ろうとした。


 そんな時にあるユーザーが書いていたエッセイの一文『自分の作品を読んでもらいたければ、まずいろんな人の作品を読んで、コメントを送ること』を読んで、彼はそれを素直に実行した。


 すると、自分の作品も徐々に読まれ始めると共に感想ももらえるようになり、そのまま現在に至っている。



 そんなある日、蓮はサイトからの通知を読んで、近々KACという周年祝いの大会が開催されることを知った。

 約一ヶ月の間に8個のお題が出され、一度でも5位以内に入ると、賞品がもらえると書かれてある。


(これは面白そうな企画だな。ユーザーの中には俺が高校生だと思って色眼鏡で見てくる者もいるから、その人たちを見返すためにも、この大会で必ず結果を残してやる)


 蓮はそんなことを思いながら、KACが始まるのを指折り数えながら待っていた。



 そしていよいよKACが始まり、最初のお題は『○○には三分以内にやらなければならないことがあった』。


 初回からいきなり難題を出されたが、それにもめげず蓮はヒーローものとカップ麺のどちらかで迷った末、ヒーローものを書くことにした。


 ネタが誰かと被ることを予想した蓮は、ストーリーを工夫し、オリジナル作品を書き上げた。


(よし! これなら誰とも被ることはないだろう。割といい作品に仕上がったし、これなら上位にいけるんじゃないかな)


 そんなことを思いながら投稿した蓮だったが、その思いとは別にPVはあまり伸びなかった。


(あれ? おかしいな。いつもなら、もう少しPVが付くんだけど……)


 結局三日経っても、彼のPVは三桁に届かず、上位とは大きく差が付いてしまった。


(このままだと、上位は無理だな。仕方ない。今回はもうあきらめよう)


 こうして連は次のお題『住宅の内見』に全力を注ぎ、事故物件の話を書いた。

 しかし、それに関する話を書いた作品が多発したため、蓮の作品は完全に埋もれてしまった。


(くそ、まさかこんなに他の人と被るとはな。仕方ない。次こそオリジナリティを発揮して、俺にしか書けないものを書いてやる)


 蓮はそう決意し、次のお題『箱』で、ブタ箱つまり留置場について書いた。


 この作品は確かに他と被ることはほとんどなかったが、内容がイマイチだったのか、PVはあまり伸びなかった。


(ちょっとリアル過ぎたかもな。オリジナルを保ちつつ、もう少しマイルドに書けばよかった)


 蓮はそう反省しながら、次のお題『ささくれ』ではパンダを主人公にし、オチを「笹をくれ」にして、これはいけるとほくそ笑んでいたが、これも結構他の者が書いていて、差別化を図ることはできなかった。


(くそ。まさかあれが被るとはな。次こそ俺しか発想できないネタを書いてやる)


 蓮は次のお題『はなさないで』で、綱引きの話を書き、手が痛くて思わず綱を放してしまった味方に、「手を放さないで!」と叱咤するオチにしたのだが、これも上位に行くまでには至らなかった。


(あれでダメなら、一体どんなものを書けば上位にいけるんだ? あと三回しかないというのに……)


 すっかり意気消沈してしまった蓮に、さらに追い打ちをかけるように、次のお題は『トリあえず』という難題が出された。


(はあ? とりあえずなら分かるが、なんだよ、トリあえずって……)


 蓮は半ばヤケになりながら、恋人同士のニワトリがデートの待ち合わせをしたけど、翌日どちらもそのことをすっかり忘れて、結局会うことができなかったという話を書いた。

 これは意外にも好評で、もう少しで上位5人に入れるところだったが、自己分析した結果、惜しくも6位どまりだった。


 あまり考えない方がいいのかもと思った蓮は、次のお題『色』でモテ男を主人公とした【色男、ここにあり】というタイトルの話を書いたが、下ネタが多かったためか女性に不評で、PVはあまり伸びなかった。


 そうこうしているうちに、いよいよ残すはあと一回となった。

 最後のお題は『めがね』。

 蓮は自分が今持っている知識を総動員し、メガネザルを主人公としたファンタジーを書いた。


 しかし、狙い過ぎたのが仇となり、PVはいまいち伸びなかった。


(なんでこの作品が上位に入らないんだ? どう見ても、上位に入ってる作品より、俺の方が数段面白いじゃないか!)


 結局蓮は自己分析した結果、一度も5位以内に入ることができず、自分のことを色眼鏡で見ていた者たちを見返すことはできなかった。


(結局みんな賞品が欲しいものだから、上位に入りそうな作品は敢えて読みにいかないんだな。ふん。くだらない。こんなサイトより、もっといいところがあるはずだから、探してみよう)


 蓮はカクヨムに籍を置いたまま、他のサイトを探し、『小説家になっちゃおうぜ』で小説を書くことにした。



 一ケ月後、カクヨムでKACの結果が正式に発表された。


 そこには計8回のお題で上位5人に入った者の他に、サプライズ賞として運営が選んだ10作品とそれを書いた作者名が書かれており、そこに蓮の名前もあったが、既にカクヨムを見限って通知が来ないように設定していた彼に、その事実を知る由はなかった。


  了




  





 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

KACで全力を尽くした結果…… 丸子稔 @kyuukomu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ