どんな色が好き?

錦木

どんな色が好き?

「さあみんなはどんな色が好きかな?」


 幼稚園の先生である私は部屋の中心で園児のみんなに聞いた。


「わたし、赤!」

「はいはい、じゃあリンゴね」

「おれ、黄色!」

「じゃバナナかな?どれもおいしそうだな」


 色を聞いて私はメモ用紙に描いていく。


 園児の好みの色を聞いておやつをつくる。

 そんな企画を言うとみんなの目がかがやいた。


「すごい!」

「ねえねえ、私こんなのがいい!」


 さまざまなアイデアを自由帳に描いていく。

 子どもの発想は本当に自由だ。

 空から取ってきて作る虹色のわたあめ。

 食べるたびにふえてなくならないお金のかたちのチョコチョコ。

 自分の身長より大きなきょだいプリン。


「今日はみんなのアイデアから取って虹のおやつをつくりたいと思います」

「にじー?」

「なにそれ」

「たとえば、赤だったらリンゴ。リンゴといったらアップルパイ。こんなふうに虹の七色の果物でおやつを作りたいとおもいます。赤、橙、黄、ピンク、緑、青、紫。さあみんなはどんな色が好きかな」


 わーわーキャーキャーと子どもたちはさわぎだす。

 パンッと手をたたいてそれをしずかにさせると私は言った。


「じゃあ好きな色ごとに友だちで集まりましょう。赤の人はここ、橙の人はここね」


 そう言って分けていく。

 うまい具合にいい人数にばらけたが一つだけポツンとひとりのところがあった。

 青色の場所だ。


「あれ、青色はアオイちゃんだけ?ほかの人はー?」


 それでもほかの子はぶんぶんと首をふる。


「私かわいいからピンクが好き」

「赤色はリーダーの色だからカッコいいんだもん」

「それに青いくだものなんてみたことないよー。むずかしそう」


 ありゃりゃこれはこまったなと思う。

 ほかの子はゆずる気がなさそうだし、七色がそろわないと面白くなさそうだと思う。


「じゃあアオイちゃんは先生とやろっか。それでもいい?」


 アオイちゃんは少しふてくされているようにうつむいていたが、こっくりとうなずいた。


「じゃ今日はここまで!つくりたいおやつを明日までに考えてきてね。かいさーん」


 そう言うとわらわらと子どもたちはそれぞれの遊びにもどっていった。

 むずかしいからこそやりがいがあるってもんなんだけどなあ。でも、かくいう私も青い果物はむずかしいかなと思った。

 どうするかねえ、と私は思う。



 次の日作ったメニューはこちら。


 赤はリンゴ。アップルパイ。

 橙はみかん。みかんシャーベット

 黄色はバナナ。バナナのパウンドケーキ。

 ピンクは桃。モモのババロア。

 緑はメロン。丸ごとメロンのフルーツポンチ。

 紫はブドウ。ブドウゼリー。



「そしてー!ジャジャン!」


 効果音をつけて私はとっておきをとり出す。

 青はブルーベリーのマフィンだ。


「ブルーベリー?!なんでー?」


 ふふふ、と私はわらう。


「ブルーは英語で『青』っていう意味なんだよ。おいしそうでしょ」


 たべたい!

 わたしも!

 そんな声がつぎつぎあがった。

 みんな手に手にマフィンをとっていく。


「青はとても人気でステキだね」


 そう私が言うと、アイデアを考えたアオイちゃんもうれしそうだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

どんな色が好き? 錦木 @book2017

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ