大学時代の撮影バイトが黒歴史

逢坂 純(おうさかあつし)

大学時代のピアノの発表会の撮影バイトが黒歴史

誰もが人生の大舞台に立つことがあると思います。僕の場合は幼稚園の発表会でのこぶとりじいさんのいいお爺さんでした。

その時は周りから光を当てて貰って主役を演じ切りました。そして大学時代、今度は僕が光を当てる番になったのです。

僕はツテでビデオ撮影のアルバイトをすることがありました。そのアルバイトは部活の先輩の紹介でやりました。最近になってやっと人の縁について考えられるようになったのですが、その頃から人の縁を大切にしていた先輩はやっぱり凄いんだなと振り返って思います。僕は大学時代、何度かそのビデオ撮影会社でアルバイトとさせてもらうことになったのですが、その時の一番最初のアルバイトの話です。

僕はピアノの発表会の撮影バイトをすることになりました。僕はその日の前日も夜更かしをしてしまい、朝、その撮影バイトに遅刻してしまいました。当時、自転車しか乗れなかった僕は、必死に会社に向かいました。

会社には社長が居て、遅刻して入ってきた僕を見ると社長は怒るでもなく、

「もう先にTさんが行っちゃったよー、行くなら急いで」と言われました。

大学生のアルバイトだったということもあり、社長は僕を怒るわけでもなく、優しく言ってくれていたのでしょう。そうして僕は現場のピアノの発表会会場に向かいました。自転車で30分程して、ホールに入ると、明かりを落としたホールの舞台の上では、ピアノを演奏する小学生の女の子がいました。僕はTさんを探そうと、入り口のあたりをキョロキョロとしていると、ホールの一番後ろの通路でTさんが三脚を立てたビデオカメラを固定にして、撮影していました。Tさんは僕を見つけると、黙って外に出るようにというジェスチャーをして、僕たちは会場の外に出ました。

Tさんは、外に出ると僕に言いました。

「どうして遅れたんだ」と。

僕は寝坊ですと正直に言いました。

すると、Tさんは声を荒げて言いました。

「逢坂君の中ではただの一つのバイトかも知れないけれど、この発表会でピアノを弾いている子たちにとって、今日は掛け替えのない晴れ舞台なんだよ!!」

実際はテレビドラマのようなこんなカッコいい台詞で言われたのかは忘れてしまいましたが、その時の僕にはその言葉がひどく刺さりました。大学生になって、自分の好き放題なことばかりやっていたのに、怒られることがなかった僕が、初めて親以外の人に怒られた経験でした。

怒った後、Tさんは僕に自販機でコーヒーを買うと、僕に缶コーヒーを渡してくれました。

そして「今度は遅れるんじゃないよ」と優しく僕に言ってくれました。

学生時代には学ぶことがとても多かったような気がします。それもまた良い経験、これも良い黒歴史です。

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大学時代の撮影バイトが黒歴史 逢坂 純(おうさかあつし) @ousaka0808

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