『シスコロール・イン・ショッピングモール』

龍宝

「姉妹の警戒色あるいはカラー・マーキング」




「――お姉ちゃん! はやくはやく! 次はここに入ろっ!」


 休日のショッピング・モールである。

 くたびれた女子大生が、はしゃいだ様子で声を上げる少女の後を追っていた。

 そのいかにも提出期限ぎりぎりのレポートをやっつけ仕事で終わらせたような顔をした女子大生というのが、私――友永三香だ。

 先日同じ大学の彼女と別れたのだが、それを知った妹の舞香の発案で今日はこうして姉妹仲良く買い物デートに来ている。恋人と別れたばかりの姉を慰める健気な妹の図だ。何もおかしくはない。


「ミカ姉、どうしたの?」


 私の隣でスマホをいじっていた鳴香が、袖を引いて尋ねてきた。うちの妹は双子だ。


「あいや、ちょっとね。行こっか」

「……ん」


 これ以上待たせるのはマズかろう。

 鳴香の手を引いて店に入った私を見て、セール品のかごに入った服を物色していた舞香が「わたしも!」と飛び付いてきた。両手に花というやつだ。左右を双子に挟まれたまま、店内を見て回る。

 明るく元気な舞香と、クールで大人びた鳴香。そして、だらしない長女の私。昔から姉妹仲は良かったが、高校生になった今でもふたりの妹は私に。まァ、悪い気はまったくしない辺り、私も大概というか。


「お姉ちゃん、メイカちゃん。これ、お揃いで着ようよ」

「……いーんじゃない。あたしは賛成」


 春物のジャケットを手に取って舞香が見上げてきた。鳴香もちらりと視線を寄越す。

 私の可愛い妹たちは、いくつになってもが好きだ。

 しかも毎回毎回、色違いではなく三人とも同じ色のものを揃えるよう要求してくる。たまには色違いでも、と提案してみても聞きやしない。決まって「そんなに嫌なのか」と泣き落としやさげすみの目をくれて私が折れる。


「いいよ。私が買ったげるね」

「「やった! ありがとっ」」


 商品を三つ持ってレジに向かう。

 会計の間、後ろから〝マーキング〟だとか〝警戒色〟だとか聞こえてきたが、学校の課題の話か何かだろうか。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『シスコロール・イン・ショッピングモール』 龍宝 @longbao

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ