聞き屋 ~某地方の古い風習より~

@tsutanai_kouta

第1話


あー、あんた? 俺の話聞きたいって?

こりゃ御丁寧ごていねいに…て、赤い名刺って派手だね。“トグロ・ガイコツ”って名前も派手だねぇ。ん? ああ、俺の田舎の話ね。


50年くらい前、俺の田舎には“聞き屋”てのが居て、誰か亡くなったら夜通し寄り添って遺体の声を聞くのを生業なりわいにしてたんだ。

ほとんどは何も言わないが、たまに喋るんだってさ、遺体が。


たいていは家族への感謝とか別れの挨拶なんだけど、たまに恨み言があったらしい。でもそういうのは伝えなかったってよ。

生者と死者のいさかいなんか見てらんないからな。


んで極々希ごくごくまれに予言もあったんだと。

未来に起きる災害を忠告したり、誰それにこんなことが起きるよ─とか。


これらの言葉を書き留めた紙は神社に納めて命日から一月後ひとつきごにお焚きあげされた。

うん、だから全部焼かれて今じゃ何も残ってないよ。それに最後の“聞き屋”は俺が子供の頃に亡くなった。確か俺のばあちゃんの葬式が最後だったよ。


その神社は今でもあるけど、代替わりしてるし、知ってる人間はいるかなあ…。

なんだよ? そんな露骨にガッカリした顔すんなよ、サトウ・ジュンペイ!


あれ? あんたの本名だろ? “サトウ・ジュンペイ”って。なんで知ってるかって?

そりゃ、俺のばあちゃんが言い遺したからさ。


「いつかサトウ・ジュンペイて奴が話を聞きにくるよ」


─ってね。




─了─

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