国王陛下の特務部隊

新巻へもん

ちっ、めんどくせーなー

「で、最終候補はあの2人ってわけか?」

 属領駐留軍参謀本部のグラッフェン大佐が背もたれを倒す。

 持ち主同様に加重労働にあえぐ椅子が抗議の声をあげるように軋んだ。

 大佐は霞む目を少し閉じるだけで睡魔に負けそうになる。


 無理もない。

 もう72時間以上睡眠を取っていなかった。

 シファ教徒が蜂起してからというもの、この総督府がある拠点防衛のために眠る間もない。


 属領の統治方針について不満が渦巻いているのは、グラッフェン自身も肌身に感じている。

 しかし、それを何とかするのは政治家の仕事だった。

 政治的な決着をとける環境を整えるまでが軍人である自分の仕事と割り切っている。

 なんとか防衛線を構築できたと思ったら、本国から面倒な電信が入った。


 王妃の弟君が500キロの彼方の遺跡に出かけたまま連絡が取れないらしい。

 我が国からの分離独立を目指すシファ教徒に拘束されれば、大幅な譲歩は免れないことからなんとしても救出せよとの命令だった。

 グラッフェンはまったくこんな時期にと天を仰ぎたい気分になったが、すぐに救出者の人選に入る。


 派遣する飛行機の航続距離から片道飛行になり、現地で王妃の弟君を見つけ出し第三国経由で脱出しなければならなかった。

 パイロットは決まっているので、同乗者であり一行のリーダーとなる者を選出しなければならない。


 先ほど面談した2人は対照的だった。

 一人は軍服の折り目も正しく、敬礼も教本に乗せられるほどで、士官学校を首席で卒業した少尉である。

 何をやらせても満点を取れる男というのが周囲の評価であった。

 そして、熱意に溢れ今回の任務についても一命をかけても成し遂げると宣言する。


 もう一人は、新人の訓練キャンプの軍曹に見られようものなら、その場で腕立て伏せを命じられそうなほど着崩していた。

 叩き上げの曹長だが、その言葉から想起されるような厳粛さは微塵も感じられない。

 射撃などの実技の成績は優秀だが、やる気は微塵も感じられなかった。


 副官がグラッフェンに恐る恐る尋ねる。

「あの2名では大佐殿のお眼鏡にかないませんでしたか?」

「いや、大尉が選んだ2人だ。この時間のない中で選んだとしては最高の選択だろう」


 副官は姿勢を正す。

「ありがとうございます。それでどちらに命ぜられますか?」

「シュナイダー曹長を呼び入れろ」

 再び、執務室に呼び入れた曹長にグラッフェンは任務を託した。


 一応は敬礼して指令を受けたシュナイダーが部屋を出ていくと副官は上司にその真意を尋ねる。

 大佐は首を左右に振りながら部下に実地教育を施す。

「少尉は優秀で勤勉だ。だがえてしてああいうタイプは想定外の事態に弱い。その点曹長は間違いなく怠惰で横着な男だ。私が命じた時も面倒だと顔にありありとでていたからな。それでだ、一度敵地に落せば軍法会議にかけられるという面倒さを回避するためにありとあらゆる手段を尽くすだろうよ」

 なにはともあれ、フォックストロット作戦は発動されたのだった。

 

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