第43話 店内での偶発的自由恋愛

 ゾディアス帝国において、獣人娼館の存在は法で禁じられている。

 理由としては、人間と獣人が軽率に交わることによって生じる事故などを減らすためだが、異種族間での恋愛や結婚まで禁じられているわけではない。


「安心しろ、ただの体裁として掲げてるだけで法の穴はつけてないぞ」

「尚のことダメじゃないですか!」


 きちんと国の監査が入れば〝店内での偶発的自由恋愛〟などは認められない。さすがに国もそんなガバガバ理論を受け入れるほどバカではない。


「獣人街で獣人同士がヤッてる分には問題ないんだ。エリダヌスの件だって、人間が暮らす城下町で人間を対象として獣人娼館を経営してたから宰相がキレてたわけだし」


 本来防ぎたいことだけ防げればいい。実害がなければ国もわざわざ円滑に回っている商売を潰したりはしないのだ。


「ちなみに、ソルドはこのお店を利用したことがあるのですか?」

「まさか。一応人間に分類される俺が利用したら問題になるだろ。これでも騎士なんだ。分別はつけ――」

「おや、ソルドの坊やじゃないか」


 ソルドの言葉を遮って先程豚の獣人のお見送りをしていた狐の獣人占い師が声をかけてきた。

 獣人としての血が濃いためか、尻尾から鼻先までしっかりと狐である。


「ソルド、あなた……」

「待て、誤解だ。知り合いってだけで別に客として来てたわけじゃない。じゃなきゃギャラパゴスの爺さんと知り合いになることなんてないぞ」


 ジト目を向けるルミナに対し、ソルドは必死に弁明をする。その様子を見て、トリスはくつくつと笑っていた。

 ひとしきり笑うと、トリスは呼吸を整えて狐の獣人占い師へと声をかけた。


「コクリさん、お久しぶりッス」

「トリスの嬢ちゃんまでいるのかい。そこの猫ちゃんも含めて4Pとはソルドの坊やも大人になったもんだね」

「………………」


 自分の身体を抱いて、ルミナは勢いよくソルドから距離を取った。


「違うから! ギャラパゴスの爺さんに用があって来たんだよ!」


 もはやルミナはソルドをゴミを見るような目で見ていた。獣人街に来てからというもの、ソルドの株が下がりっぱなしである。


「それに俺はこの店で〝恋愛〟はしたことないだろ?」

「ははっ、ごめんごめん。からかっただけさ」


 狐の獣人占い師コクリはソルドの肩をぽんっと叩いた後、その手をひらりと振った。


「長老なら部屋にいるはずさ。裏口から案内するよ」


 そして、そのまま三人を裏口から店内へ案内したのであった。


「さすがに未成年の子を堂々と表からお店に入れるわけにはいかないからね」


 店の内装は外装と同じく桃色と紫色で統一されており、怪しげな雰囲気を醸し出していた。天井からはキラキラと輝く水晶がぶら下がっている。

 コクリに連れられ、ソルド達は奥の部屋へと向かう。


「ソルド兄! 久ぶり!」


 その途中、コクリと違ってかなり人間よりの見た目をした狐の獣人の少女と出会った。


「マリンか、大きくなったな」


 ソルドは懐かし気に目を細めながら、マリンと呼ばれた少女の頭を撫でた。


「その子は?」

「コクリさんの娘だよ」

「ああ、娘さんですか――娘!?」


 さらりと答えたソルドに、ルミナは驚愕の声をあげた。


「別に珍しいことでもないぞ。子供を育てるために占い師やってるシングルマザーは結構いるんだ」

「お客様には内緒で頼むよ」


 コクリは悪戯っぽくウインクをしながら口に指を当てた。


「マリン、これからソルドの坊や達は長老とお話があるからお話は後でね」

「はーい!」


 元気良く返事をして、マリンはその場から離れていった。


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