第42話 占いの館

 ルミナに獣人街を見せるという目的も果たしたことで、三人は本題である亀の獣人ギャラパゴスのいる場所までやってきた。


「占いの館、ですか」


 桃色と紫色の装飾が施された怪しげな店をルミナは興味深そうに眺めていた。

 占いの館の看板の下には料金表が載っており、時間ごとの料金や指名料なども記載されていた。


「指名料まであるんですね」

「ああ、占い師にもベテランや新人がいるからな」

「なるほど、皇族にも専属の占い師が付いていた時代もあったくらいですし、獣人の間ではそれがより一般的というわけですね」


 ルミナは納得した様子で看板を見上げながら呟く。

 純粋無垢なルミナの反応を見て、トリスはソルドに小声で話しかけた。


(先輩、どうするんスか)

(どうするも何も、このまま乗り切るしかないだろ)


 器用にハンドサインで会話をすると、ソルドは冷や汗をかきながらも話を続ける。


「ギャラパゴスの爺さんはこの店のオーナーもやっているんだ」

「長寿の占い師となれば、腕も凄そうですね」


 ルミナの言葉を聞いて、ソルドは内心ほっとしていた。

 このままなら誤魔化せそうだ。そう安堵したときだった。


「しかし、占いと聞くと女性の方が好きそうなのに、入っていくのは男性ばかりですね」


 ルミナは訝しんだ。いくらなんでも客が男性一色過ぎないか、と。


「獣人は人間よりも占いの文化が一般的だからな。むしろ、男連中の方がこういう店は行くんだよ」

「そういうものなのですね」

「ああ、そういうもんだ」


 力強く断言されてしまえば、ルミナとしてもそれ以上追及することはない。そういうものだと納得するまでだ――目の前で露出度の高い服を着た女性と妙にスッキリした表情の男性が手を繋いで店から出てこなければ。


「今日も最高だったよ、コクリちゃん!」

「また来てねー!」


 狐の獣人の女性と豚の獣人の男性が店の前で別れる。

 その様子をソルドとルミナはただただ黙って眺めていた。


「「……………………」」


 気まずい空気が二人の間に流れる。


「見送りまでするなんて常連客への対応は丁寧だな、うん」

「先輩、往生際が悪いッス。もう無理ッスよ」


 全てをなかったことにしようとしているソルドに、トリスは容赦なく現実を突きつける。


「ソルド、正直に答えてください」

「おう」

「このお店は娼館ではありませんか」

「違うぞ、占いの館だ」

「では、何故占い師の女性と客の男性が手を繋いで出てきたのですか」

「占いの最中に仲良くなったんだよ。占いは人の心の奥に触れる。親しくなっても不思議じゃないさ」

「男性が妙にスッキリとした表情を浮かべていましたが」

「占いを通して溜め込んでいたものを吐き出すことができたんだ。スッキリもするだろう」

「占いと称して性的なサービスがあるのではないですか」

「違うぞ、占い師と客が占いの時間中に愛を育むことがあるだけだ」

「完っ全に法の穴を付いてるじゃないですか!」


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