六〇〇字のあとさき

森下 巻々

第1話 アメリカと私

 タイトルにした『アメリカと私』というのは、江藤淳の書いた本である。これは、江藤について書きたかったからであって、何でもよかったのだが、先に思いついたのがこれだった。『成熟と喪失』でも『一族再会』でも『作家は行動する』でも、よかった。

 田中康夫さんの『なんとなく、クリスタル』を好評価し、村上龍さんの『限りなく透明に近いブルー』を絶対に認めないと評価したのは、加藤典洋が『アメリカの影』で評題にしたほどに有名。

 昭和七年生まれということで、昭和二〇年から七を引くと一三か。石原慎太郎が同じ昭和七年生まれ。大江健三郎は昭和一〇年生まれ。

 その世代としては思うところがあったのだろうが、僕には『閉ざされた言語空間』は、ピンとこなかった。

 結局、江藤淳でよく印象に残っているのは夏目漱石についての文章であって、特に漱石と兄嫁の関係性について書いていたこと。漱石にとって兄嫁は身近な性を感じさせる存在であったという推理。

 後は、野坂昭如の『文壇』に、文壇バーだかどこかで江藤淳を見かけた記述があったと思うのだが、読みながら僕には意外であった。ああやっぱりこの時代の文学者は皆、バーとか行ったんだなあ、と思ったのを覚えている。

 何かの本で江藤淳は、年寄りがトレーナーという不思議な服を着るとか言っていたのであって、ファッションセンターしまむらで買ったパーカーを着ている年寄りもいる西暦2024年の田舎は理解できない人だったろうなあ、と僕は思う。

 

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