ハッピー・ウェディング!

蒼月 紗紅

ハッピー・ウェディング!

 ――ねぇねぇ。ウェディングドレスってさ、沢山の色の種類があるけどそれぞれの色にちゃんと意味があるって知ってる?


 ……まー確かに、ブライダル業界の販売戦略って言われたらそれまでだけどさぁ。もう、そんな無粋なこと言わないでよ。


 ――ほら見て、例えばこれ。純白のドレスには『貴方の色に染まります』って意味が込められてるんだって。

 いいなぁ。やっぱり子どもの頃からの憧れだったから白にしようかな。んーでも迷うなぁ。ピンクとか黄色もかわいいなーって思ってしまって。意外と青とかもいいかも。



 ……え? お前はどんなドレスを着ても似合うだろって? もう、そんなこと言わないでよ。照れるじゃん。ふふ。




 ――でもね、そうじゃなくてね。あなたが一番かわいいって思ってくれるような私になりたいの。私だけを見てほしいの。他の子なんて見ないでよ、私だけを見ててよ。



 他の子になんて目移りさせるものか、私だけでいいんだよ。こんなに頑張ってるんだからさぁ。ほら見てよ、あなた好みの服を着てあなた好みのメイクをして。そしてあなた好みの顔にしたんだよ。そうだよ、だから。ねぇ。ねぇ、ねぇ。




「ふふ、見ーつけた。久しぶりだね」


 あの日、私の横で囁いてくれた『愛してるよ』って言葉はきっと嘘なんかじゃないよね。夜中の繁華街を二人きりで歩いたデート、楽しかったなぁ。指輪だってくれたじゃない。部屋にも呼んでくれたじゃない。


 それなのに、それなのに。……他に女がいたなんて信じられない。どうして? ねぇ、どうして? なんで?


 ――あなたに会えなくなってからは毎日が苦しくて息も出来なかったの。連絡も取れないし家も引っ越しちゃったみたいでさ。見つけるの大変だったんだよ。やっと会えて嬉しいな。でもなんでそんなに苦しそうな顔をしてるの? 分からないよ。



 ……そっかぁ。じゃあ分かったよ。こうしちゃえばいいんだ。あなたの『心』を、このまま突き刺してあげる。


 ――もう大丈夫。これからは


「ずっと、ずーっと、一緒にいようね」



 *



 ――もう朝かぁ。いつの間にか寝ちゃってたみたい。ん、おはよう。


 白色のお気に入りのワンピース、あなたに見てもらいたくって着て来たのに。こんなに汚れちゃった。でもいいの。服なんてまた新しく買えばいいだけだもん。



 なんだか部屋中から嫌な臭いがするけど、これもあなたの匂いなんだなって思うとそれすらも愛おしい。


 顔も汚れちゃったから洗わなきゃ。えぇと、洗面所は……。時間が経ち、乾いた『それ』は私のワンピースを黒々と染めていた。




「……あー、そういえばさ。黒色のウェディングドレスの意味って知ってる?」



「『貴方以外には染まりません』だって、うふふ。あはは」




 私は静かに壁にもたれる彼の傍に身を寄せた。手を優しく握りしめ、そして全てを委ねる。


 窓の隙間から入り込んできた柔らかい朝の日差しが私たちの門出を祝福する。二人きりの部屋に、けだたましく鳴り響く着信の音はまるで福音の鐘のように奏でられていた。

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