第5話 つまんない

「朱美のおかげで間に合ったわ」

「それ、どうするのー?」

「大切な事に使うのよ。いきなり真っ暗になるんじゃ、人も植物も動物も、空自身さえもビックリしちゃうからね」


 ガーネットがビンの蓋を開け、何やら呪文を唱えると、中に詰まっていた赤い液体が再び煙に返り、ぐんぐんのぼっていきます。


 空いっぱいに夕焼けが広がりました。


「わあー!」

「今日一日、付き合ってくれてあんがとね」


 朱美ちゃんの身長よりも高く飛びあがったガーネットの姿は、夕日に溶けるように透けていました。


「どしたの?」

「決まってんでしょ、夕方よ。帰んのよ、あんたも私も」


 夕暮れのチャイムが聴こえて来ました。


 遠き山に日は落ちて。ちっちゃな朱美ちゃんは、このメロディが遠い外国から来たことも、日本で作られた歌詞さえも知りません。


 ただ、この音楽が鳴るとお友達とわかれて帰らないといけないから寂しいしつまらないな。という事だけは体験で知っていました。


「じゃーね」


 ガーネットの夕日みたいな赤い髪が一番に溶けていって、微笑みの気配だけがいつまでもそこにありました。


「あれ? 朱美ちゃんじゃないか。一人でずいぶん遠くまで遊びに来てたんだね」


 振り返ると、そこには金雄さんが真っ白になったフェラーリに乗っていました。危ないから家まで送るよと助手席に乗せてくれました。日本にフェラーリの本領を発揮する場所はありません。安全運転でちびっこ女子をおうちまで運びます。いつもウザい金雄さんは静かでした。正直な朱美ちゃんから疑い目線ビームが出てる事に気づいた金雄さんは、


「この真っ白なフェラーリと共に、僕も生まれ変わったのさ!」


 と、いつものウザさを発揮しました。となりにいるのがそうたおにいさんだったら良かったのにな。と思いながら、朱美ちゃんは窓ガラス越しにガーネットと作った夕焼け空を眺めました。一生懸命集めた赤は、黒い夜空に齧り尽くされようとしています。

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