KAC20248 いろめがね

狐月 耀藍

いろめがね あるいは気づきたくなかったこと

 半年前に隣にでかい家が建って引っ越してきたあいつは、いつも僕につっかかってきた。

 この前だって漢字小テストで勝負を挑まれたから、給食のプリンを賭けて受けてやった。


「約束だ、プリンもらうぞ!」

「いいよ。……えへへ、かっこいいね」


 鬼ごっこ、鉄棒、縄跳び、ドッジボール、テスト……。僕が勝つたびに、あいつは「かっこいいね!」と喜ぶ。お世辞は嫌いだって言うと、またうれしそうに「だからかっこいいんだよ」。

 悪くない気分だった。


 もうすぐ僕らは小学校を卒業する。あいつの家は金持ちだし頭もいいのに、なぜか同じ公立中学に入るらしかった。


「ボクの勝手でしょ?」

「そうだけどさ。ま、ほかの小学校のメンバーも増えるから中学では一緒にならないいだろうな。ラッキーだぜ」

「なにそれ。ボクと一緒じゃ嫌なの?」

「だってお前、いっつも突っかかって来て面倒くさいもん」


 勝負事は楽しかったけど、いつもそれだったからな。


「……ボク、そんなに面倒くさかった?」

「すっげぇ面倒くさかった。……あっ、子猫だ」


 道の塀の上にいた子猫を指さすと、あいつもそっちを見た。


「かわいいね」

「お前が『可愛い』? 似合わねえ!」


 いつもみたいにおどけてみせたら、うつむいて、無言で鞄を叩きつけてきた。やっぱあいつ、ふざけてる。


 入学式の朝、俺は一番を目指して中学校に着いた。

 まだほとんど生徒がいない中、張り出された名簿で教室を確認する。なんてこった、またあいつと一緒かよ。

 教室に入ると、あいつがいた。


「……またボクと一緒だね」


 声も出なくなるほど驚いた。

 ……あいつが一番だった。また負けた。

 少し恥ずかしそうにうつむき加減に、僕の隣の席で微笑んでいた。


「スカート、初めてだけど……可愛くない、かな?」


 あいつが女子の恰好なんてするはずがない──それは僕の色眼鏡だった。


「えへへ……一番乗りはボクだったね?」


 負けだ、きっとお前が一番可愛い!

 ヤバい、他の男子に負けてられないぞ!

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