第36話 人間側は魔王領のダンジョンに畏怖し、冒険者たちはのめり込んで行く

――人間側side――



魔王城に出来たダンジョンは、すぐに大きくなった。

多くの冒険者が押し寄せては消えていき、帰ってくる頃にはギルの町まで一直線に戻っていく。

それはとても異様な姿だったと語る町の者たち。

最果ての村にはギルの町までの直行便の馬車も動き始め、ギルの町はさらに発展し、最果ての村も町くらいには発展した。

一度魔王領にあるダンジョンに潜れば、運が良ければ半月ほど帰ってこないものもいたが、それでもやはり戻ってきてはギルの町へと消えていく。

レベルの低い者たちは集まってレベル上げをし、ギルの町でのレベル上げを目指しているようだった。

それもまた異様な光景で……。



「魔王領に行って冒険者たちは可笑しくなったんじゃないか?」

「目の色変えて金策して、ドルの町では最低限のお金しか落とさないらしい」

「あんなに貯め込んで魔王領に行って何をしてるんだろうねぇ」



そう囁かれるのに時間は掛らなかった。

勇者たちも勇者たちで、まだまだ最果ての村までは遠い。

彼らに待ち受けているのは何なのか、二人は気づいてもいないだろう。


ただ、聞こえてくる言葉は一般庶民からは「魔王領に行って冒険者たちは可笑しくなった」と言う言葉と――冒険者達から聞く「魔王領にしかないものがある」と言う言葉。

『その魔王領にしかないものとは?』と、聞かれても冒険者たちは頑なに語ろうとはしない。

ギルドマスターが問いかけても無駄だった。

ただ頑なに「魔王領に戻らねば」と口にする冒険者に、ギルドマスターたちも困惑していたようだ。



「魔王領のダンジョンに何があるっていうんだ?」



不思議に思ったドルの町のギルドマスターは、副ギルドマスターにその場を任せ調査に乗り出すことに決めたのも、その時だった。

財産の半分を持ち、ギルの町から最果て迄の乗合馬車に乗り、最短ルートで突き進む。

既に金稼ぎを済ませた冒険者たちからは興奮している様子が伺え、ギルマスは心の不安を抑え込んで進んでいく。



「なぁ、俺も魔王領のダンジョンに行くんだが、注意事項とかあるのか?」

「ああ、ドナさんもいくんですか」

「まずは受付しないと中に入れませんからねぇ」

「受付? ダンジョンだろう?」

「ダンジョンなんですが、受付必須なんですよ」

「訳が分からないな」



そういうとドナは流石に困惑した様子だったが、あの一時期ドルの町にあった【期間限定の不可思議な店・キヌマート】が幾つも点在する場所になっていると聞き、流石のドナも目を見開いた。



「あのキヌマートが点在しているだと?」

「そうなんですよ!」

「でも魔物用と人間用で店が違うんで、人間用は青、魔物用は赤だよな」

「間違えて入ると店員に叱られますよ」

「はははは!」



そいって笑う冒険者たちの顔色はかなりいい。

あんなにも必死に稼いだ金をドッサリとアイテムボックスに入れて、ドルの町にも最低限しか落とさず行く位だから、お目当てはキヌマートだろうか?

それならば理解できるのだが――。



「ドナさんも行ったら抜け出せなくなりますよ」

「ほう? そんなに魅力的なんのか?」

「んー稼いで使って稼いで使って、でも娯楽なんですよ」

「娯楽?」

「今まで味わったことのない娯楽だよな」



冒険者の娯楽と言えば娼婦や男娼、それに酒だが……それ以上に味わったことのない娯楽とはなんだろうか?



「中毒性があるのか?」

「ありますね」

「一度やると止められねぇな」

「あれを知っちゃうと無理だな」



そう語る冒険者たちにドナは冷や汗を掻いた。

己は今死地に向かっている筈なのに、周囲は全くそんな様子がないからだ。

何かがおかしい。ドナはこの魔王領へのダンジョン調査に、一抹の不気味さを感じずにはいられなかった――。





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