放浪する異世界宇宙の島【パラミスト】

第10話・宇宙放浪島はピピ・リマの故郷

 異世界宇宙を進む、超異世界女型要塞【プルシャ】姉型──は、甘い匂いがする星域に突入した。

 鼻先を指で撫でながらカミュが、仮想体のプルシャに質問する。

「宇宙にも匂いがあるのか?」

「この星域は、少し焦げた焼きリンゴの匂いが漂っていますね……宇宙のダークマターは、完全には解明されていませんから」

「なるほどな」


 カミュは船橋スクリーンに映し出されている、マーブル模様の紫色恒星を眺める。

 卓上パネル操作をしていたパイ・ライトが言った。

「プルシャ姐さん、そろそろ異世界人の方々に、船外に出てもらって〝星見〟でもさせてみませんか……星が見頃ですよ」

 カミュが、プルシャに訊ねる。

「星見ってなんだ?」


「文字通り、星を眺める宴です……特殊な重力場と大気層を作りますから、船外でも安全です」

「そうか、船長どうする?」

 カミュは、船長席にいるメリノ・ウールに視線を向ける。

「いいんじゃねぇ……ずっと船内にいるよりは、気持も晴れるだろうし」

「決まりだな……で、外に出るにはどうすりゃいいんだ?」


 パジャマ姿で枕を抱えた、クー・ロンが言った。

「異世界宇宙も完全な真空じゃなくて、少ないけれど空気はあるからな……一応、有害な放射線から肉体を守るミストコーティングは、させてもらうからな」

「放射線? なんでもいいや……その、ミストコーティングとかをやってくれ」


  ◇◇◇◇◇◇


 船外宴会希望の数名が、ピピ・リマに案内されてミストコーティング室にやって来た。

 何も無い部屋に、聖女のドール・ジと女神のヌクテ・メロンが首をかしげる。

「何も無い部屋ですね……あっ、天井に細かい穴が開いたハチの巣みたいなモノがある?」

「あはっ、あの穴からミストが出てくるのかな?」


 天井に設置されたハチの巣状の装置から、ミストシャワーが噴き出し、室内にいる者たちの体を濡らす。

 そして、電気のようなモノが霧の中に流れ、肉体のコーティングが完了した。

 カミュがコーティングされて少し光沢がある、自分の腕を擦りながら言った。

「なんか奇妙な感覚だな」

 イケニエだけが、なぜか通電して一人で痺れていた。

「なんで、オレだけぇ!」


  ◇◇◇◇◇◇


 異世界人たちが船外に出るとオーバーテクノロジーで、ドーム状に空気が固定された場所に、ピピの星見の準備が完了していた。

「さあ、異世界人のみなさん。星見を楽しんでください」

 壮大な星雲や恒星を眺めながらの宴会、アルコールの勢いもあって星見は盛り上がる。


「だいたいねぇ、カミュは勝手なのよ……いつになったら、あたしを女神だと認めて。ぶっ飛ばしてくれるのょう……ちょっと、あなた聞いている?」

 酔っ払ったメロンが、モンスターボール生物たちに絡んでいて。

 その近くではドールの「うけけけけけけっ」という奇笑が響いていた。

 重力が少し弱いトランポリン的な場所では、調子に乗ったイケニエが飛び跳ねていた。

「この場所、おもしれえ……おっ、おあぁ、ぐへッ」

 調子に乗りすぎて高く飛びすぎた、イケニエの頭が空気を溜めている安全エリアから宇宙に飛び出す。

 同時に、運が悪いコトに宇宙を高速で飛んできたスペースデブリ宇宙ゴミの金属片が、イケニエのコメカミを貫通する。

「ぐあぁぁぁ!」

 即死したイケニエに向ってピピが伸ばした触手が、イケニエの足をつかんで引っ張り下ろす。


 リズムが怖いもの見たさで、イケニエの宇宙に出てしまった頭部をカミュの背中越しに覗き込む。

「うわぁ、宇宙に出ちゃうとこんな風になっちゃうんだ……エグい」

 イケニエの亡き骸に近づいてきた、ヤゲンがイケニエの穴が開いた傷口にオークの軟膏を塗り込む。

 傷口がふさがり、イケニエが上体を起こす。

「はぁはぁはぁ……死ぬかと思った、なんでオレだけ」

 ヤゲンがオークの軟膏を、木製の薬箱に仕舞いながら言った。

「実際に死んでいたぜら……やっぱり、バカにはどんな薬でも効くぜら」


 その時──大量のスペースデブリ宇宙ゴミが、宇宙に開いたブラックホールのような漆黒の空間穴から放出され。

 ゴミの続いて、奇妙なモノが跳躍で現れた。

 下部は半球の岩石で噴射口のようなモノが付いていて、上部は地形から切り取ったような山岳の田舎風景、町や村や川や湖が見えた。

 そして、放浪する異世界宇宙の島は上部がゼリー状のドーム型をしたぶ厚い膜で被われ、内部には空気が満ちていた。


 その放浪島は、そのまま女型要塞に突っ込んできて。カミュたちがいる船外近くへと、ぶつかり……ゼリー状の膜が癒着するような形で、超異世界女型要塞にくっついた。

 カミュが呟く。

「なんか、変なのがくっついちまったな」

 ハラミが戦斧を手に島に近づくと、膜を薄くスライスして切り取り、一口食べてから言った。

「うん、生でも食べられる……みんな、この膜食べられるよ粘菌みたいな食感で、少し硬いけれど火を通せば柔らかくなると思う」

 さすがに、異世界人たちもハラミの食材に対する好奇心に……引いた、若干三名を除いて。

「どれどれ、拙者も味見を」

「これなら効力を調べて、薬膳や漢方薬に使えそうだぜら」

 狂四郎とカミュとヤゲンが、ハラミがスライスした膜を食べていると。

 船橋にいるクーがマイクを通して言った。


『おまえら、船内にもどれ……その島は放浪島【パラミスト】だ……ピピとプルシャ姐さんも、黙って見ていないで異世界人を、船内に避難させろよ』

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