第10話 バカなこと考えてんじゃ(sideユキネ)
放課後に再び集まったあたしたち三人は、先日あたしがリツちゃんと別れた十字路に立っていた。
「ここでリツちゃんは向こうに行ったんだよ。ちょうどあたしの帰り道と反対方向だったんだよね」
「よし、じゃあ探そう。表札見て行けば余裕っしょ。ここ住宅街っぽいし」
西島さんは意気揚々と先陣を切り、残り二人がそれについていった。宮本さんがあたしを伺うように見上げた。
「あの、ごめんね創路さん。わざわざ手伝ってもらって」
「別にいいよ。あたしもリツちゃんのこと気になってたし。あの試験のあと落ち込んでるだろうから」
「……うん」
宮本さんは沈んだ表情を浮かべて俯いた。あたしは聞いていいものか悩んだあげく、意を決して口を開いた。
「あのオケの演奏、何か理由はあんの? リツちゃん、客席から見てたら泣いてるように見えたんだけど」
「それが……分からないの」
宮本さんはゆるく首を横に振った。
「集合時間になっても空矢さんが来なくて、結局リハもできなかったの。本番ギリギリになってからやっと来たんだけど、ちょっと様子がおかしくて……」
「様子がおかしい?」
「うん。取り乱してるっていうか、とにかくいつもの落ち着いてる感じじゃなかった。なんていうか、心ここに在らずっていうか」
「ねぇ! これじゃない!?」
西島さんの声が聞こえる。彼女の指が示す方向に目を向けると、その表札には『空矢』と書かれている。高級住宅街に堂々と建つ大きな一軒家だが、なぜか寂れた雰囲気を感じる。西島さんはチャイムに指を添える。
「じゃピンポン押すね」
「い、いいのかな。何の連絡もしてないけど……」
「連絡する手段無いんだからしょうがないでしょ」
尻込んでいる宮本さんを無視して西島さんはチャイムを押す。ピーンポーン、と間延びした音が鳴る。しかし────しばらく待っても何の反応も無い。西島さんは首を傾げる。
「留守なのかな」
「さぁ……」
あたしは何か嫌な予感がした。全身に鳥肌が立ち、最悪のイメージが脳内を掛け巡った。
────もしあの演奏に絶望して、自殺なんてこと考えてたら……。
────そんなのダメだ!
「バカなこと考えてんじゃ……っ!」
「えっ、創路! 待ってよ!」
西島さんを押しのけ、あたしは扉のノブに手を掛けた。鍵が掛かっていない。無抵抗に扉が開いた。
「ねぇ! リツちゃん!」
「流石にダメだって、不法侵入だよこれ!」
「二人とも落ち着いてよぉ!」
玄関は酷く真っ暗で、扉を開けた勢いで屋敷の中には埃が舞っていた。もう随分長い期間掃除がされていないことがありありと見て取れた。
「返事して! リツちゃん! 生きてんの!?」
あたしは乱雑に靴を脱ぎ、片っ端から扉を開けていく。
「生きてるって……まさか……」
「ちょっと! そんなの冗談でしょ!?」
二人の血の気が引いた声がする。大声でリツちゃんの名を呼びながら彼女の姿を探す。
「う、うう……」
微かなうめき声が聞こえた。あたしはその声を頼りに屋敷の中をどんどん進んだ。階段を上ると、一つだけ不自然に扉が少しだけ開いた部屋があった。
「リツ!」
扉を開けた。部屋には、床に倒れ伏したリツちゃんの姿があった。
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