教員生活、異状なし。

文科省のねこ

新年度初日、分掌未定。①

 新採用から3年を経て、私、文ねこ(ぶんねこ)は初めての転勤を経験しました。県のど真ん中に位置する中規模校から、県の北端にある中規模校へ。縁もゆかりもない土地への異動です。ドタバタ慌ただしく引っ越し、荷物もろくに片付かないままの4月1日。


 新たに借りたアパートから車で10分少々。比較的新し目の商店、飲食店が並ぶ旧国道沿いに新たな勤務校はありました。指定された時間の10分前に校舎に入り、校長室へ。

 初めてお会いする校長先生はすらっと背が高く、服装も白い髪もきっちり整えられたダンディな風貌。壮年向けのファッション誌のモデルも務まりそうな方でした。ただし、喋りは方言全開。「文ねこ先生、よぅ来なすった。堅苦しい学校でねぇすけ、肩肘張らねで大丈夫だっけさ。」そのミスマッチがなんとも味わい深い。


 私と同じく、新たにこの学校にやって来た職員が揃ったところで、職員室へ移動。簡単な自己紹介をした後、自席へ案内されて職員打ち合わせ。私が奉職する県では、この打ち合わせで校務分掌の発表があるのが一般的です。前年度から在籍する職員には卒業式が終わったくらいのタイミングで暫定版の分掌が知らされているけれど、それはあくまでも暫定。4月最初の勤務日の朝に発表、全職員で確認されたものが確定版となります。

 さて、打ち合わせは、日程の確認、諸連絡、教頭先生の話と進み、大トリの校長先生の話へ。この話の中での分掌発表が行われるのが、これまで私が経験してきたパターンでした。今回もその流れか?その学校での勤務が2年目以降なら、それまでの働きぶりを見た管理職が得意分野や経験を加味して(あるいは経験を積ませるための試練?として)分掌を決めてくれるのですが、この年の私はピカピカの異動1年目。何が割り振られるか気が気でありません。若手ですから、何にでも挑戦する気持ちで臨もうとは思っていましたが、やはり未経験の分掌、苦手な仕事が山のように降ってくるのは御免被りたい。さあ、鬼が出るか蛇が出るか!


 ……ところが。


「じゃ、校務分掌発表と行きてとこなんだけど、ちっと待ってくんなせや。教頭さん、T先生(教務主任)ちっと校長室来て。みなさんは、できることから新年度準備してください。」


 そう言い残すと、教頭先生、教務主任を伴って校長室へ消えるダンディ校長。地域差か?学校差か?ここでは年度初日には校務分掌は教えてもらえないのか?

「文ねこ先生、学年だけは決まっててね、先生は5年生だよ。5年3組。私ね、学年主任のMです!校長先生が出て来られるまで、名前シールのハンコ押しでもしてましょう!はい、これシールと氏名印。スタンプ台持ってきた?まだ荷物は車の中?貸そっか?」……


 離れた席から声をかけに来てくれた学年主任の、何事もなかったかのような明るく朗らかな笑顔と声に促されて、私は何がなんだか分からないまま学級の指名印が入った箱を開けたのでした。

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