アイアンハート

宇宙(非公式)

第1話

「ironってさ、英語でもiroって入ってるし、アイロンって読んでもイロって入ってるよね」

「アイアンだけどね」

 別にそれは良いじゃない。目の前の「彼」は意地悪に微笑む。

「あ、オレンジ色」

「さっき言ってなかった?」

「嘘、そっかあ」

 教室の窓から見えたものの色を口にしていくゲームをやっている。特に理由はない。机の上には『怪物の卵』が置いてある。

「あれ、朱色じゃない?」

「どれ」

「あれ、あの看板」

「ほんとだ」

 朱色は確か、まだ言っていない。そして、机の上には『怪物の卵』が置いてある。つまり、『怪物の卵』は机の上に存在している。

 私はその朱色の看板を見て、クラスのあいつがしている色付きのリップを思い出した。ふいに、悔しさが胸の中で広がる。じわじわと、侵食されるような気分だ。

「私さ、あいつら、ああもう、」

 私の声は震えてしまう。私が話そうとする言葉は、どこか安っぽく思えてしまう。何もかもが悔しい。

「良いことは言えないけどさ」

私は頷く。

「君は、君の色のままでいてほしい」

 僕は、そのままの君が大好きなんだよ。彼は続ける。どこか遠くを見ていて、顔はこれでもか、というほど赤い。私の視界は涙で歪んでいる代わりに、顔は笑顔に歪んでいた。

「赤、みっけ」

「赤はもう言ったよ」

 私たちは笑い合った。夕方五時の焼けた茜色が、私たちを、教室の中を照らす。

 机の上に置いてある『怪物の卵』が赤く染まった。もともとの色と相まって、どこかとても美しいものかのように映った。しかし、実際は美しさとはかけ離れている醜さだ。

「もうすぐ帰らないとね」

「うん」

「じゃあ、また会う日まで」

「うん、じゃあ」

 とは言ったものの、私たちはおそらくもう会えない。携帯はどちらも持っていない。家がどこにあるかも知らない。でも、それでもまた会えると信じたかった。

 そう言えば、初恋は初色とも言うらしい。なんだか素敵だ。私は心の中に初色を見つけた。

 相変わらず、机の上には『怪物の卵』が存在していた。

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アイアンハート 宇宙(非公式) @utyu-hikoushiki

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