第37話 冒険者組合★
5歳となり、スキルも手に入ったことで、漸く冒険者として活動出来るようになったメイリーは、冒険者組合に来ていた。
メイリーの家の商会がある場所やステンド家の屋敷がある場所とは反対側にあるため、あまりここら辺には来たことが無かったが、冒険者組合があるだけで、特に変わりがない。
高位の冒険者は凄まじい稼ぎをしているため、冒険者業が盛んな街では、冒険者組合の近くは賑わっていることが多いが、この街のようにさほど冒険者業が奮わない街だとこんなものである。
冒険者組合に入ると受付カウンターが見えたのでそこに直行する。
「こんにちは」
「こんにちは。えーと、ご用件は?」
「依頼を受けたいんですが、おすすめってありますか?」
「はぁ、おすすめですか。…えっ!」
まさかメイリーが冒険者として依頼を受けようとしているとは思っていなかったようで、吃驚してしまう受付嬢。
それもその筈である。見た目も実年齢も5歳のメイリーを見て、まさか冒険者とは思えない。
「あの、冒険者ライセンスはお持ちですか?」
「ああ、ありますよ。はい!」
「え?持ってるんですか。拝見しま…」
メイリーのライセンスに刻まれた貴族紋を見つけ唖然としてしまう受付嬢。
少し経って再起動した彼女は、メイリーを置いて奥の方に走って行ってしまった。
少し待っていると焦りを露わにしながら戻ってきた受付嬢がメイリーに謝ってくる。
「お待たせして本当に申し訳ございません。それでですね。組合としましては、貴族紋をお持ちの方でも実力がわからないことには依頼を斡旋することは出来かねますので、戦闘力を測るテストをして頂けますでしょうか?」
「はぁ。わかりました。」
冒険者はランクで管理されるため、それ以外でのテスト等は行わないと聞いていたメイリーであったが、実際は面倒な手続きがあるようである。
とは言え、メイリーとしても年齢や体格で判断されて簡単な依頼ばかり斡旋されても困るので、素直に受けることにした。
受付嬢に連れられ組合の後ろに設けられた訓練場で暫し待機していると、大柄で強面の男がやって来る。
「おい、コーリン。俺を呼び出すからどんな奴が相手かと思ったらただの餓鬼じゃねーか。こんな奴テストするまでも無く不合格だろうが」
「仕方ないでしょ。相手は貴族紋持ちなのよ。…こほん。それでは試験官も到着したところでテストを開始します。ルールは殺しは失格。相手が降参するか、気絶したらそれ以上の攻撃を禁止。それ以外は何でもありです。わかりましたか」
「はい。」
「ははは、餓鬼がいっちょまえに返事だけしやがって。冒険者を舐めてんのか。」
おもいっきり威圧してくる男。しかしメイリーの目から見ると、その男はガンルーよりも弱そうであった。
(まあ自信満々なんだから、何かしらあるんでしょ)
メイリーは油断はしないように男を見据えた。
「それでは始めて下さい。」
「おりゃぁぁー。」
開始早々、大剣を抜き、無警戒に突進してくる男。
やはり脅威に感じない。メイリーは牽制目的で魔法を放った。
「『風刃よ、敵を切り裂け』」
メイリーの風刃が大剣を支える右腕を切り裂く。
「あ、あ、うぁぁ。俺の右腕がぁ。」
この程度を防げないことに驚くメイリーだが、まだ勝負は付いていない。
男は泣き喚くだけで気絶も降参もしていないのだ。
「風掌よ、放て」
「がふっ!」
顎に風の掌底をヒットさせ、地面に転ばせるのだが、それでもまだ意識が有りそうな男。
(中々にタフだな。まあ痛みへの耐性は無さそうだが)
大柄な体格とタフさが自慢なのかもしれないが、それなら痛みへの耐性はマストであろう。
そんなことを思いながら、メイリーは更なる魔法で追撃体勢に入った。
しかしその時、
「そ、それまで。終了です。勝者はえーと、メイリーさん」
受付嬢が終了の合図をだす。突然の事に驚きつつもメイリーは魔法の発動を止める。
受付嬢は、未だに喚いている男に駈け寄り、ポーションを振りかけ、止血する。
そして立ち上がりメイリーを睨み付けて言う。
「やり過ぎです。何もここまでやる必要は無かったはずです。戦士にとっての生命線の腕を…」
「はぁ。不用意に近づいて来たので、何らかの対策をしていると考えただけです。冒険者なのに未知の敵に対して対策が取れてなかった、その方の落ち度でしょ?」
「それは!…そうですが。」
メイリーは知らないが、こういう貴族紋等によってライセンスを取得する輩を正式に取得した冒険者たちはよく思っていない節がある。
それは組合側も同じである。そのためテストと称してそういった実力の伴わない輩を不合格とし、録な依頼を斡旋しないという風習があるのだ。
更に言えば今回来たメイリーは5歳児である。典型的な貴族のゴリ押しにより冒険者資格を手に入れた者であり、普通なら警戒するに当たらない存在である筈なのだ。
メイリーの言うことは正論だが、何処に一流の魔法使い並みに魔法を使いこなす5歳児がいることを想定できるというのだ。
「それで合格ですか?」
「…はい。」
試験官を務めたこの男もこの街では名の知れた冒険者であった。
そうでなくとも数少ない戦力となる冒険者を、こんな嫌がらせ染みたことで、失ってしまうのであった。
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