【KAC20247】紅組と朱組の体育祭

あばら🦴

紅組と朱組の体育祭

 石原くんは家庭の事情で〇‪✕‬高校の体育祭の前日に転校してきた。当然競技の練習もしておらず体育祭に参加できない石原くんは、実況席の後ろで見学となった。

 実況を担当する放送部の吉田さんは、同じクラスとなった石原くんを歓迎した。


「よろしくね、石原くん!」

「うん。よろしく」

「うちの体育祭を楽しんでいってよ。うちの体育祭の伝統、ちょっと変わってるんだから」

「変わってるの? おぉ、気になる!」


 しばらくすると、全生徒が校庭に集い、いよいよ選手宣誓の時間が迫ってきた。

 そこで石原くんは違和感を覚える。彼らのハチマキの色がおかしいのだ。


「……あれっ? 赤組だけじゃない? 白組は?」

「あぁ、うちはくれない組としゅ組でやってるのよ。どう? 変わってるでしょ?」

「いや、紅組と朱組って見分けつかなくない!? みんな赤いから誰がどっち側か分からないんだけど!」

「珍しいでしょ? 白組が無いって結構珍しいと思うんだよね」

「そんなことより見分けがつかない方が気になるよ……」

「そう? 見分け方としては、ちょっと暗くてピンクめなのが紅、ちょっと明るくてオレンジめなのが朱だよ」

「そうは言っても、陽の光でどっちも明るさ同じに見えるからなぁ……」



 選手宣誓が終わり、リレーの種目が始まった。

 スタート位置とにバトンパスの位置に各組の代表が来る。吉田さんの実況も白熱した。


『さぁ、各組の選手が出揃いました!』

「出揃ってるのかな。赤組しかいないようにしか見えない……」


 教師がスターターピストルを放って、紅組と朱組の選手が一斉に駆け出した!

 だが両者の差はじわじわと広がった。


『紅組、前に出たーっ!』


 だが後ろの選手はその差を一気に縮め、前に躍り出た。


『朱組、ここで追い抜いたーーーっ!』


 その二人は抜いて、抜かされ、抜いて、抜かされを繰り返し、そしてついにバトンパス地点の前で、片方が踏ん張りをかけて差を離した。


『おぉーーーっと、前に出たのはどっちの選手だーーーーっ!?』

「分からなくなってるじゃん!」


 片方の選手が先にバトンをパスして、パスされた選手は走り出した。


『朱組の選手、軽やかにスタートを切ったーーー! そしてどうやら先ほど前に出たのは紅組らしいとの事です!』

「パス先間違えてるよ! 選手まで分からなくなってる! いいの? そのまま続けちゃって!?」


 その後も白熱したリレーは続き、そして決着がついた。

 ゴールテープを切った陸上部の西野くんは、放送部の新入生に感想を聞かれて荒く呼吸をしながら喋った。


「勝てて嬉しいです。全力を出した甲斐がありました。このまま朱組の勝利に向かって戦い抜きたいです」


 放送部の吉田さんはマイクに言った。


『ありがとうございました。紅組の西野くん、見事な活躍でした!』

「選手まで間違えてたらダメだよ! 走ってる途中にどっちだか忘れてるじゃん! やめた方がいいって!」

『最後まで諦めない豪快な走りでしたね!』

「西野くん、恥ずかしかっただろうなぁ……」



 そして種目は進み、玉入れとなった。


『玉入れのルールを説明します。ひとつのカゴに自分の組の色の玉を多く入れた方の勝利です。終了時間が来たらカゴの中に紅か朱かどちらが多いのかを先生が数えます』

「えっ? ひとつのカゴ?」

『校庭をご覧ください。今到着しましたね。こちらの大きなカゴの中に紅と朱の玉を投げ入れあっていただきます』

「分からん分からん分からん! 分からなすぎるよ! せめてカゴは分けようよ!」


 参加する生徒は立たされたカゴの周囲に円を描くように移動された。そしてお互いの色の玉が地面にばら撒かれると、玉入れ競技は開始された。

 三十人での玉入れ競技なのだが、ひときわ目を引く女子がいた。


『おぉーーーーっと! すごい! 紅組の向井さん、どんどんと玉を入れていくーーーっ!』

「うわぁ、すごいなぁ。ペースが段違いだ」

『紅色の玉が投げ入れられていきます! とてつもないスピードです! あぁーっとどういうことでしょうか!? 向井さん、朱色の玉もどんどん投げ入れているーーーーっ!』

「色が同じだから分からなくなってるよ!」

『このやり方はもう、そういうことでしょう! 目に付いた玉をとりあえず投げ入れています!』

「見境なく投げてるから早いのか! みんな悩んでるから!」


 終了時間が来たので先生がカゴを回収し、数を数える作業に入った。

 数の数え方は紅組の玉を右、朱組の玉を左に投げることで行われる。

 先生は一つ目の玉を握ったが、一向に投げない。


『これはどういうことでしょうか!? 先生が玉を凝視したまま投げる動作に入りません!』

「分からないからだよ! どういうことかは明白でしょ!?」

『動いた! 腕が動きました! 先生が玉を左に……おぉーっと投げませんでした!』

「迷ってる! いつまでかかるのこれ!?」

『その玉は紅組か、朱組か、さぁどちらか!? 先生はどちらを選択するのでしょうかーーーっ!』

「なんでここも競技みたいに実況するの!?」



 種目は進み、綱引きとなった。

 縄が校庭に置かれ、綱の両サイドに生徒が立つ。

 しかしアクシデントが起きた。


『おぉーーーっと! 何が起きているのでしょうか!? 左側が三人で右側が二十七人です!』

「本当に何が起きた!? 戦力差九倍だよ!」

『どうしてなのでしょうか!? 一体何が原因でこうなってしまったのか!?』

「絶対に色のせいだよ! みんな分からなくなってるって!」

『今一度確認してください。紅組が右で、朱組が左ですよ』


 吉田さんのアナウンスでハッと気付いた生徒が動いた。


『あぁーっとこれは! 今度はどうなってしまったのでしょうか!? 左側がゼロ人で右側が三十人です!』

「本当にどうなったの!? 競技ですらなくなったよ!」

『えぇーっと今入った情報によりますとどうやら先生側の手違いで、紅組と朱組のところを紅組と紅組を連れて来てしまったようですね』

「今の今まで分からなかったのが恐ろしいよ!」



 種目は進み、騎馬戦となった。

 三人に肩車された一人という形の四人組が、紅組と朱組ともに五組ずつで、肩車された一人が相手の一人の色のハチマキを奪い合う。

 スタートしてすぐ、激しい攻防が繰り広げられた。


『あぁーーーっと、激しいぶつかり合いだぁ! 手に汗握る戦いです! おっと! 紅組の選手、根性で紅組のハチマキを奪い取ったーーーーっ!』

「ハチマキの色のせいで味方同士で戦ってるじゃん!」

『しかし朱組に選手も動きました! 紅組に負けじと朱組も朱組のハチマキを奪うーーっ!』

「負けじとの使い方合ってる!? なんで味方同士で削り合ってるの!?」


 さらに戦局は動き、一対一になった。


『おぉーーっと、こちら側にも熱さが伝わる攻防です! 両者とも果敢に攻める! 攻める! あぁーーっと、決着だーーーっ! 朱組の勝利です! 朱組と朱組の一騎打ちは朱組の勝利です!』

「そりゃそうだよ! なんで朱組しか居なくなったところで止めないの!?」



 そして体育祭最後の種目、組体操になった。

 皆の努力が伝わってくる、情熱的な組体操が行われた。石原くんもその組体操には見入った。


「みんなすごい……! それに組体操なら色が関係ないから集中して見られる」


 そして組体操ラストの目玉の演目も終わった。息が切れる生徒たちの汗が輝いて見える。その姿に保護者たちはカメラを向けながら目元を潤わせた。


『生徒のみなさん、素晴らしい組体操でした! 閉会式を行いますので自分の組の通りに並んでください』


 吉田さんのアナウンスで、先生の指示通りに生徒たちは動いた。紅組と朱組に別れて校庭に座るように並ぶ。

 しかし、そこでアクシデントがあった。


『おぉーーーっとこれは! 一体どうしたのでしょうか!? 組が三つあります!』

「そんなことがあるの!? みんな分からなくなってるじゃん! めちゃくちゃだよ!」

『紅組と朱組と……組なのでしょうか。いや〜、どの組も大健闘でした!』

「緋組はいつから闘ってたの!? というかどれがどの組なのかも分からないよ! 紅と朱の見分けの話はなんだった!?」


 そのまま閉会式が進んで、得点の発表となった。

 吉田さんは代表してマイク越し集計された得点を発表する。


『紅組は百五十点、朱組は百五十点、引き分けでした。なんと引き分け! 奇跡ですね! これはもう、よく頑張った紅組も朱組も大勝利です!』


 吉田さんがそう言うがしかし、喜びの声は出なくて、そして落ち込む声だけが生徒から漏れた。

 石原くんの戸惑いはさらに増す。


「みんな自分のことを緋組だと思ってるの!?」




 おわり

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【KAC20247】紅組と朱組の体育祭 あばら🦴 @boroborou

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