ハイエース姫

XX

お姫様の話です。

 昔々、あるところに。

 子供が居ない王様と王妃様がいました。


 王様夫婦はとても子供が欲しかったのですが、あるとき


「お前たちに素晴らしい子供が出来る」


 という神のお告げを受けました。

 そしてそのお告げ通り、王妃様の生理が止まりました。


「陛下、あなたのお子を懐妊しました」


 そう、王妃様が陽性の妊娠検査薬を持って報告しにきたとき。

 王様は「でかした王妃よ!」と大喜びしました。


 そして1年後、王妃様はとても可愛い女の子を産みました。


 王様は大喜びし、大宴会を開くことを命じました。

 そして王様は、近隣諸国の王族や貴族だけでなく、国に住んでいる魔女たちも招きました。

 この国には13人の魔女たちがいましたが、1人だけ性格が捻じ曲がり、すぐ他人を妬み悪いふうに考える嫌われ者の魔女がいました。


 彼女だけは呼ぶと何をされるのか分からなかったので、彼女だけには情報が行かないように腐心し、招待状も当然出しませんでした。


 宴会はまるで麦わらの一味のようにド派手に行われ、その終わりになったとき。


 魔女たちが赤ちゃんに魔法の祝福を授けました。

 1人1つずつ。

 

 優しさ、美しさ、富、賢さ、健康、寛大さ、想像力、体力、義理堅さ、貞淑さ、そして王の資質……


 11人の魔女がそんな祝福を与え終えたとき、突然13人目の魔女が入ってきました。


 おそらく彼女は自分だけ蚊帳の外にされたことを恨んだのでしょう。

 いきなり、こう言いました。


「この王の血を分けた娘は17才のときDQNにハイエースされ、死ぬのだ」


 叫ぶように。


 その呪いを掛けて、その魔女は即座に印を結び


「マルアリフ ロートルト ルシエーグ!」


 真語トゥルーワードを詠唱し転移魔法を使用して、去って行きました。


 みんな絶望的な気分になりました。

 王女様は17才になるとDQNにハイエースされて死ぬのです。

 けれど……


 12人目の魔女は、まだ祝福をしないで残っていたのです。

 彼女は言いました。


「あの魔女は性格は捻じ曲がってますが、最強の魔女なので、その呪いを解除することはおそらくできません」


 皆の絶望が深まります。

 取り消せないのか、と。


 しかし、魔女は続けてこう言いました。


「それでもやれるだけ頑張ってみようと思います。物事に絶対は無いものです」


 ……唯一の希望。


 王様は「それでもいい、頼む」と半ば叫ぶように言いました。

 魔女は頷き、王女様に最後の祝福を授けました。


 13番目の魔女の呪いを無効化する祝福を。


 そして全力で祝福を授けた後。

 憔悴しきった顔で魔女は言いました。


「全力を尽くしました」


 そして彼女は言いました。

 自分の解呪の祝福が失敗に終わった場合、どうなるか。

 それは……


 17才の誕生日を迎えた日に。

 王女様の首筋に、ハイエースの刻印が浮かび上がるのです。


 それは贄の刻印で……

 そうなったらもう、魔女の定めた運命から逃れる術はありません。




 王様は愛する娘を守るために、国中のハイエースを廃車にするように命じ、DQNを強制収容所にブチ込み、次々と殺処分しました。

 一方で11人の魔女たちの祝福は王女様に対して豊かに実りました。


 王女様は賢く、美しく、スポーツ万能で、優しく人望があり、まさに王の資質を備えた存在になりました。


 そんな王女様が17才になった日。


 皆が恐れていたことは起きませんでした。

 王女様の首筋は抜けるように白いままで、どこにもハイエースを思わせる刻印など浮かび上がっていなかったのです。


 王様は大喜びし、王女様にこれまで念のため控えさせていた公務を与えました。


 王女様がはじめて命じられたのは隣の国への使者。

 王様の代理です。


 王女様は王族としてのその初めての公務に、使命感と喜びで燃え上がりました。


 しかし……


 そこで王女様は、隣の国のDQNで有名な、ドキュソ王子に見初められてしまったのです。


 ドキュソ王子は40過ぎなのに独身で、王族なのに王族の自覚が無く、他の王族に「一族の恥さらし」として嫌われていました。

 そんな彼は、王女様を見て


「彼女こそ俺の花嫁に相応しい」


 と思い込み、DQN仲間に命じてハイエースを準備させました。


 そう。隣の国ではまだハイエースが廃車にされていなかったのです。


 ドキュソ王子はハイエースを運転し、公務を終え自分の国へと夜道を1人でトボトボ歩いて帰っている王女様を拉致しようとしました。


 王女様は安全な自国に慣らされており、JKが夜道を1人で歩くことの危険性を理解できていなかったので。

 全くの無警戒でした。


 何も気づいていない王女様の背後から、邪悪なハイエースが迫ります。

 そして王女様がDQNたちに捕まり、口を押えられて車の中に引きずり込まれようとしたときでした。


「そこまでだ一族の恥さらしめ!」


 そこにヒーローが現れました。


 ドキュソ王子の甥っ子で、イケメンのハイスペ王子でした。

 彼はあっという間に王女様を捕まえているDQNたちを斬殺し、王女様を救出。

 そして彼は王家の剣を振るい、ドキュソの乗ったハイエースごとDQNたちを一刀両断。


「グアーッ!」


 ドキュソの乗ったハイエースは爆散し、隣国の一族の恥は爆炎の中で燃え尽きました。


 しかし想定外の事故が起こります。


 なんと、爆散したハイエースの破片が、王女様の腕を深く傷つけたのです。


 大変です。

 王女様はVIP。

 

 怪我をさせたとなれば、国際問題!


「大丈夫ですか!?」


 慌ててハイスペ王子は王女様に駆け寄り、介抱しました。


「大丈夫です」


 王女様はそう気丈に答え、立ち上がろうとしますが、このまま返しては絶対に国際問題になります。

 ハイスペ王子は王女様を半ば無理矢理病院に担ぎ込みました。




 王女様が帰国しました。

 そして父親である王様に謁見し、隣国であったことを奏上しました。


 王様はうんうんと頷きながら聞いていました。


 そして最後に、隣国の王子に窮地を救われたことを奏上するとき


「私の血液型の検査をしてもらいました」


 王女様はそう王様に言いました。

 王女様は血液検査をしたことがなく、病院に担ぎ込まれたときに


「この後手術の話が出たときに分からないと困るので、血液型を教えて下さい」


 と言われたとき、困ったのでした。


 そして検査し


「陛下。私の血液型はA型です」


 そう、笑顔で奏上しました。


 王様は震えました。

 何故なら

 王様の血液型はO型で。


 ……王妃様の血液型もO型だったので。

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ハイエース姫 XX @yamakawauminosuke

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