第47話 原作主人公
新人がやってくるということで、俺は円卓の間で幹部たちと集まっていた。
リベラートはまず新人二人と顔を合わせるために、司令部にある応接室へと足を運んでいる。
この時期にやってくる新人ということで、俺の中で浮上している一つの説がある。それが、原作の開始時期なのではないかということだ。
フィーネ相手に戦ったり、湖に遊びに行ったり、領地を開拓したりと色々と活動している内に、そろそろここに来てから一年経とうとしている。
確か、原作での主人公のデフォルトネームは『ゼン』だったはずだ。もし、やってきた新人二人の容姿に見覚えがあるのであれば、確定であるだろう。
「どうしたのレイ。ソワソワしてるけど……もしかして、緊張してる?」
ノアがそう聞いてくる。
そんなにソワソワしてたかなと自分を省みつつ俺は言う。
『まあ、緊張してるって言えばそうなのかもね』
魔物であることを明かすのが嫌な訳では無い。単純に原作主人公かそうでないのかということでソワソワしているのだが、ノアにそんなことを言っても伝わるわけないのだが。
「だ、大丈夫だと思いますよ……。レイさんは優しいですから……」
近くにいたツバキにそう励まされる。そう言ってくれると俺としても嬉しいのだが、別にそっち方面で緊張している訳では無いんだよね。
「そろそろね。新人以外に誰か来るということもないわ。レイはそのままで大丈夫よ」
未来視で観測した未来を元に言及するリリア。どうやら、領内の権力者やそれに付随する立場の人間はいないらしい。
そうして待つこと数分後、部屋の扉が開く。最初に入ってきたのはリベラートだ。彼は後ろで控えている男女二人を招くと、彼らの横で待機した。
入ってきたのは男女二人。
男の方は、まだ幼さが残る面影に、短い銀髪の少年。
女の方も、少年と同じくらいの歳だろうか、金髪碧眼という如何にもな容姿をしていた。
彼らは俺を視界に入れると、二人して固まってしまう。
……なるほどね。これはたしかに原作主人公とその同期でありヒロインの一人である、ゼンとナナであろう。
彼らは俺の存在を認識した途端、脳のキャパがオーバーしてしまったのか、その場で固まって動かなくなってしまっている。だがそんな様子の新人をものともせず、幹部の一人。リリアは半ば強引に自己紹介を始めた。
こうでもしないと話題が進まないのだろうか。
無理やり自己紹介をしたリリアに続いて、どんどんと自己紹介していくあまりに早く流れる情報に食らいつこうと、さっきまで放心していた二人は意識を取り戻して必死に聞いていた。
俺の存在は無かったことにされている。
まあ気持ちは分かるがね。
「さて、これで俺たちの自己紹介は終わった。今度は君たちの番だよ」
新人二人に対してリベラートがそう促す。俺は全く自己紹介していないが良いのだろうかと思うが、まあ良いんだろう。
そんなことを考えていると、新人二人の自己紹介が始まった。
まずは銀髪の少年。まあ恐らくゼンという名だとは思うが。
「僕の名前はゼンです。姓はありません。というか、記憶喪失でこれまでのことは覚えていないんです」
ファッ!?
え、そんなことある?まあ確かに?原作では主人公の深堀りがあまりなかったような気がするなーとは思うが、まさか記憶喪失なんて初めて知ったんだが!?
「……私の名前はナナ・セティアです。よろしくお願いします」
俺を睨みながら自己紹介するナナ。気持ちは分かる。だって俺たち本来なら敵だもんね。
「ゼンとナナだね。まあ二人はこれから徐々にここでの生活に慣れていって欲しい。何かあったら、俺や幹部に言ってね。大抵のことなら助けてあげられるから」
「……なら、一つ聞いてもいいですか」
「何かな?」
「そこでふわふわ浮いている魔物についてですよ!?一番大事なことですよね!?」
「あーね」
「『あーね』ってなんですか!?何を差し置いてもまず説明するべきことでしょう!?」
ここでナナからの鋭いツッコミが炸裂した。正論である。彼女が言っていることは何から何まで正論である。
彼らが俺の事を説明しなかったのはただ単にイタズラしたかっただけなのではないかと思う。アリベルトとか無表情だけどどことなく楽しそうだし。
あと思い付く理由としては、思考停止させて反論させる隙を与えずに流れで納得させるとかだろうか。
まあその前にナナに突っ込まれてしまったのだけど。
『まあまあ、俺の名前はレイ。しがない魔物だ。ゼンは記憶喪失なんだって?大変だな。これから仲良くしていこう』
「え、あ……はい、よろしくお願いします?」
「何ちゃっかり流されちゃってんのよ!魔物なのよ!?私たちが倒すべき敵なんだけど!」
「でも、挨拶はちゃんと返さないと」
「そこじゃないでしょ気にするところは!」
うーん漫才。これ以上ない漫才だ。茶番でもある。実際この空気になったことで俺の存在に殺気立つことも無くなっている。結果オーライだ。
「ちょっとふざけすぎちゃったかな。彼の名前はレイ。そこにいるノアを魔界で助けたことで、俺たちの味方をしているんだ。信用できる魔物だよ」
「……よくよく考えたら意思疎通ができるってだけでかなりの異常だったわ……」
「ちなみに能力者でもあるからね。そこの所を理解してくれると助かる」
「……はぁ!?」
色々とヤバい情報が目白押しで、最早立っていることもギリギリと言えるくらい疲弊しているナナ。ゼンは事の大きさがあまり分かっていないのか、ポカンとした表情だ。
「も、もう驚かない……。もう一生分の驚愕をさせられたわよ……」
そうは言うが、フィーネが魔物率いて侵攻してきたこととか話したら、また驚くんだろうな。
なんかリアクション芸人みたいになってしまったが、これは大体俺のせいなので済まないと言っておく。
彼女だってちゃんとヒロインの一人なのだ。
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