第52話 閃光王子 十八

 王宮のバルコニーにアラン、グリードが現れると王宮前の民衆はどよめき、リポーターがカメラを向け、その様子は緊急生放送でテレビで伝えられた。アランが口を開いた。

「フェルト国、そしてヴェイン公国、ドーン連邦の国民の皆さんにお伝えしたい事があります。ヴェイン公はフェルト国とファルブル家についての先日の主張を撤回する事としました。ヴェイン公は御自分の立場を顧みず、ただ両国の平和の為に自らの過ちを認め、油田から軍を撤退させ、フェルト国と敵対しない事を確約してくださいました。私はヴェイン公のこの勇気ある御決断を支持したい!」

 民衆から拍手が湧き起きる。アランはグリードにマイクを渡した。

「今回、我が国の事を想う余りに先走り、強引な手段に出た事を恥じている。我が国とフェルト国との緊張が最大限に高まり、もはや戦って雌雄を決する他無いと誰もが考えていた時、ファルブル家の長男レオン君はなんと単身私の屋敷に飛び込んで来てまったく新しい選択肢を提案してくれたのだ。私は彼の勇気を称え、その提案を呑もうと思う。私の娘、メイと彼との結婚を認め、祝福しよう」

 民衆から拍手と歓声が沸き起こり、たっぷり時間を取ってからグリードは演説を締めた。

「フェルト国民の皆さん、我が国の皆さん……どうか私にもう一度だけお互いの国の為、尽力する機会を与えて欲しい。二人のようにお互いに手を取り合い、新しい時代のために邁進して行きたい!」

 紙吹雪が飛び、王宮は拍手と歓声に包まれ、後日お互いの国で平和を祝福するパレードが行われる事になった。


「ふざけるなッ!」

 パーン大佐は油田に展開した軍事キャンプの指令室で机に拳を叩き付けた。

「掌を返しやがってあのボンクラが! その上ファルブル家のガキが俺の妻になる予定だった女と結婚だと? どこまでコケにすれば気が済むんだあのクズ共! 俺は絶対に退かんッ!!」

 パーン大佐の私怨によりドーン連邦軍は撤退する事は無く、フェルト軍とヴェイン公国軍が組んだと知って士気が下がり切った連邦軍とフェルト国軍が睨み合う形となった。


 夜が明けようとしている。


 油田にファルブル家の飛行船が現れた。フェルト国軍から歓声が上がり、連邦軍に緊張が走った。ダイヤモンドのような輝きを放つレオン・ファルブルが飛行船のバルコニーに現れ、夜明けの光を背景にして叫んだ。

「俺はファルブル家十七代目当主、レオン・ファルブルだ! フェルト国の為、そして正義の為にこの戦いを終わらせる時が来た! ドーン連邦のパーン大佐は卑劣な戦略を用いて俺達ファルブル家とフェルトを混沌に陥れようとした。俺はそんな物には負けないッ! どんな暗闇も俺が照らしてやる! 俺達は常にあの光と共にある!」

 レオンが拳を突き上げ、アルベルトが部隊を率いて現れるとフェルト国軍の興奮は最高潮に達した。


 ドーン連邦軍はその光景を見て戦意を無くし、カーテンを開けるかのようにパーン大佐への道が開いて行く。パーン大佐は歯ぎしりして怒りを露わにした。

「どいつもこいつも……! いいだろう、我が父ウォーケンの仇、今晴らす時!」

 パーン・ウォーケンはフレイムランチャーを担いだ。 

 アルベルトは肘から展開した銃を右に、腰のタンクと繋がった細長い銃身を持った銀色の機械を左手に持って叫んだ。

「出撃ッ!」

 アルベルト達がパーン大佐へ向けて空を滑空して来る。

「積年の恨み! 父の仇だ! 食らえィ!」

 パーンはフレイムランチャーをアルベルトに向かって撃つと、轟音と共に砲弾が飛んで行く。アルベルトが左手の機械に付いた引き金を引くと銃身から勢いよく水が放たれ、砲弾は水圧で大佐の背後へゴロゴロと吹っ飛んで行き、湿って火炎は不発に終わった。

「あれ!?」

「対策済みだッ!」

「馬鹿なァーッ!」

 アルベルトはパーンを射殺した。

「戦は終わりだ! 勝鬨を上げろ!」

 アルベルト達が勝鬨を上げると、ドーン連邦軍は武器を捨てあっさりと投降した。



 フェルト国の王宮を使って挙げたレオンとメイの結婚式はテレビで放送され、世界中から祝福された。フェルト国とファルブル家、そしてヴェイン公国の友好関係を世界にアピールする大きな機会となった。

 ドーン連邦は今回の騒動をパーン大佐の暗躍によって起きた混乱であると説明したが、アランは大佐の行動は国が先に石油の強奪に向かって動き、それに続く動きだと知って受け付けず、戦後賠償を求めた。ドーン連邦の中でもハクトウはあくまで石油はドーンの物、カルは北大陸で分け合う物だとして反発し合うようになった。



 二年後。



 アサヒは電話を切るとホークと共に街を歩き出した。

「行くぞホーク。サソリから掃除の依頼だ。こいつらを消せばこの街はだいぶ綺麗になる」

「俺達以外はな」

「違いない……おや?」

 蒸気を肩からシュンシュンと出しながら厳ついデザインに改造した人型戦車が数台、見慣れない旗を立てながら猛スピードで走り抜けて行き、パトカーがサイレンを鳴らしながら追い掛けて行った。

「言ってる側からか。悪党ってのはどこからでも湧いて来るよな」

「ありゃ悪党っていうよりは馬鹿騒ぎしてるだけな気がするが……」

「あいつ等じゃない、バックに付いてる奴等の話だ」

 野次馬が空を見上げて歓声を上げた。

「あいつもまだまだ引退は先になりそうだな」



 フェルト国を旅立って南の島に立ち寄り、美しいサンゴ礁を見ながら戻って来る予定だった豪華客船は、現在ドーン解放戦線を名乗る武装勢力によって占拠されていた。

 手際良く船を占拠した兵士達は、三つある大広間にそれぞれ客を人質として集め、フェルト国に向けてメッセージを送ろうと船長にリーダーが詰め寄り、待機中の兵士が部屋の中を巡回していた。

 最後尾の大広間の人質の中から、一人の青年がゆっくりと立ち上がって前に出た。

「あのー」

「貴様! 何勝手に動いてやがる!」

 銃を突き付けられると、手を上げた青年は落ち着き払って答えた。

「いやなに、一つ君達にとって最悪のニュースがあるんだよ」

「あ?」

「あんたら、たまたま俺が乗り合わせた船を占拠しちゃったんだよね」

 そう言うとレオンは強烈な閃光を相手に浴びせた。

「ぐあああ! 何だ!? 目が!」

 レオンは胸ポケットに差さっているペン型のスタンガンを取り出し、悠然と歩いて兵士の首にペンを押し当てた。

「ぎゃああ!」

 バチッと電流が走り、兵士は悲鳴を上げるとその場に崩れ落ちた。

「バカンスの邪魔しやがって。乗客名簿くらい事前に見ろまったく」

 立ち上がったヘンリーが兵士を縛ると、レオンは取り上げられてテーブルに置かれていた銃をメイとジイさん達に渡した。

「じゃ、俺はちょっと船を救って来るわ。誰か来たら皆でひとつよろしく」

「うん。レオン、気を付けて」

 レオンはメイにキスすると、ペンを指揮棒のように振り、ロープを持ったヘンリーと共に鼻歌を歌いながら出て行った。



「と、いう訳でね、父上は無事テロリストも手玉に取れる男に成長したって話さ」

 タキシードを着たオールバックの男が、カジノのテーブルに置かれたトランプのカードをディーラーに戻した。

「へえーかっこいい! お父さんもやっぱり強かったんだ」

 隣にいた美女が両手に顎を乗せ、マーカス・ファルブルの話に聞き入っていた。

「ああ。父上も御祖父様に引けを取らない男だったのさ。そんな二人が作った組織を潤沢な資金で支えるのがこの俺って訳だ」

「よく言うわよ。さっきから勝ったり負けたり、少額でちまちまやってるけど。ギャンブルは弱いの?」

「強いよ。俺には勝利の女神が見えるからな」

「はい?」

「君にも見せよう」

 マーカスは左隣の席で大勝負をしようとしている男を見て微笑んだ。マーカスはスーツケースを持って立ち上がると、その男の賭け金にスーツケースに入っていた札束を全て上乗せした。男は自分の賭け金を大幅に超える大量の札束に面食らった。

「え?」

「ちょ、ちょっと何やってるの?」

「君に乗らせてもらうよ。大丈夫、君は必ず勝つ」

 周囲の者達がざわついている。ディーラーの顔が険しくなった。マーカスは葉巻に火を点けると煙を吐き、ディーラーに念押しした。

「俺はマーカス・ファルブルだ。後から払えないなんてのは無しだぜ」

「く……!」

 緊迫した空気の中、ディーラーがカードを男に配った。

 男が震えながらカードを開くと、エースとジャックのカードだった。

「うっうおおおおお!」

「す、すげえ!! ブラックジャックだ! あいつ勝ったぞ!!」

 大歓声の中、マーカスは男と握手した。

「あ、あんた! なんで俺が勝つって分かったんだ!?」

「俺には他人の未来が見えるからな」

 マーカスはネクタイを締め直した。

「さて、乾杯といこうじゃないか。今日の君の勝利と、二年後の君達の幸せに」

「え?」

「はい?」

「紹介しよう、こちらの美女があなたの勝利の女神だ」

 マーカスは美女の手を取って立たせると、男に紹介した。

「え? あ、どうも」

「あ、えーと……どうも。どういう事?」

「まあまあ、そのうち分かるさ。さあレストランに行こう。今頃シェフが自慢の魚料理を完成させる頃だ」

 マーカスは葉巻を揉み消しながら呟いた。

「さて。俺達の未来はどうなるかな……楽しみだ」

 マーカスはテーブルから立ち去った。葉巻の煙がふわりと立ち昇り、灰皿の横に置かれたグラスの氷がマーカスをぼんやりと映し出していた。



 大根王子  完

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大根王子 げど☆はぐ @RokkouMasamune

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