第50話 閃光王子 十六
ダンスホールに飛び込んだアルベルト達は蒸気を唸らせ着地した。周りの者達はアルベルトの登場に悲鳴をあげて震え出した。
「う……ぐ……! ア、アルベルト君! 君はパーティーには呼んでないじゃないか! 無礼だぞ!」
「ヴェイン公。サプライズがあった方が盛り上がるでしょう? 一曲踊らせてもらいますよ」
アルベルトの右腕から折り畳みの銃が音を立てて展開した。
「ぎゃああああ!!」
実際はかなり飛行船のすぐ上を通過してくれたおかげで落下した時間は二秒程だったが、レオンには無限に長い時間に感じた。
「ぐえっ!」
飛行船の真上に着地すると、天井の円錐部分は意外と硬くて寝袋越しでも痛みに呻いた。
アサヒはその様子を飛行機から見て笑った。
「マジかよあいつ! 父親以上じゃねえか! 完全にイカレてやがる!」
レオンは体を起こして深呼吸した。
「すーはーすーはーすーはー。よ、よし! もう一回!」
そして覚悟を決めると走り出し、さらに下に滑り降りた。
「いやああああ!!」
レオンは泣きながら大根液でコーティングされた部分に触れないよう跳ぶと、落ちながら飛行船のデッキに向かってロープを投げた。屋敷の反対側のデッキの柵の部分に鉤が引っ掛かるのが見えた。
「や、やった! ひいいいいいい!!」
ぶら下がったロープは振り子状に動き、レオンを屋敷の窓に放り込んだ。
激しい音と共に窓ガラスが割れ、悲鳴と共にレオンが飛び込んで来た。
「レオン!?」
レオンはそのままフレイムランチャーを持った軍人に突っ込んだ。
「ぐえっ!」
「うおおっ! 痛ってえ! わ、悪いオッサン!」
ロープや寝袋と絡まって気絶している軍人を押しのけてレオンは立ち上がった。
「はーはー! マジ死んだかと思った! 俺すごい! 俺すごい!! やったぞ! うおおおおーーッ!!」
レオンは死の恐怖を乗り越えた喜びで叫んだ。
「先手必勝だああああーーッ!!」
そしてそのまま全力で輝き出した。
「うおお! 何だ!? 何も見えん!!」
「ぐわ! や、止めろレオン! 何をやってる!?」
「父上を止めるにはこれしかないでしょーが!」
「な、何故だ!? 何故止める!?」
ダンスホール内の全員が完全に視界を奪われ動けない。レオンはグリードに向かって叫んだ。
「ヴェイン公! 俺はレオン・ファルブル! アルベルト・ファルブルの息子です! 初めまして!」
「そう言われても何も見えん!」
「俺の魔法は自分を輝かせる魔法なんだ! もし俺が光るのを止めたらあんたは今ここで父上に撃たれて死んじゃうんだろーなー! どうしよーかなー!?」
「う、ぐ! 眩しい! や、止めろ! いや止めるな! 光るのは止めるな! 何が目的なんだ!?」
「娘さんを僕にください!」
「顔も分からん相手に娘をやれるか!」
「顔も分からん相手に嫁がせようとしたのはあんただろーが! ふざけんな!」
「む……!」
「それから石油は諦めろ!」
「な!?」
「どうせ諦めなきゃここであんたは死ぬ! そして父上が油田の敵部隊も蹴散らして終わりだ! いやーそれに引き換えファルブル家と仲良くしたらさぞ幸せな未来が待ってるんだろうなー!」
「……」
「メイは俺が幸せにする。必ずだ」
「……」
「レオン、お前……」
アルベルトは銃を下ろした。グリードはしばし考え、やがて口を開いた。
「そうだな! 私が悪かったかもしれん! 目が覚めたよ!」
周囲の政治家達は絶句した。
「な!? ず、ずるいぞヴェイン公! こんな馬鹿な話が有るか!」
「レオン君、娘は二階の東側の部屋だ! アルベルト君、撃たないでくれ! 私は投降する! 許してくれ! この通りだ!」
「そう言われても見えません!」
「ん? 何だこれ」
レオンはフレイムランチャーを見つけると手に取った。
「ヴェイン公、何ですかこの長いやつは?」
「それは大砲型の火炎放射器だ! 止めろ、撃つなよ!」
「火炎……? ははーん、なるほど。分かりました! 父上のためにこれは没収で! 父上、これ足元に置いとくから! それじゃ!」
そう言うとレオンはダンスホールを飛び出して行った。
「……」
「……」
視界が戻り、完全にしらけきったダンスホールの人間はしばらく沈黙していたが、やがてアルベルトが口を開いた。
「で、では、ヴェイン公こちらへ。他の兵士は武器を捨てて投降してください。議員の方達は退室して頂きましょう」
「う、うむ」
室内の兵士はモタモタと武装解除した。
「何だ……この終わり方は……」
メイは部屋に向かって全力疾走して来る足音に気付いた。
「メイーッ!」
「レオン!?」
レオンが扉を開くとメイはレオンの胸に飛び込んだ。くるくると回る。
「レオン! あんた本当に来るなんて! あはは! 凄いね、歌劇みたい!」
「お前の親父さんにもご挨拶して来たぜ! 光越しにだけどな!」
「意味分かんない!」
ひとしきり回るとレオンはため息をついた。
「ふー。戦争の方もまあ……親父さんもこっちに付いたし何とか穏便に済みそうだな」
メイはレオンの首に手を回したまま微笑んだ。
「ふふ。何だかんだ言ってあんたはいつも何とかしちゃうのよね」
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