第42話 閃光王子 八

 アルベルトの部屋の扉がノックされた。

「アランだ」

「入ってくれ……それは?」

 部屋に入って来たアランがビデオテープを一つ持っていた。

「君宛てに来てる。送り主は分からない」

「再生してみよう。熱電動モニターで映るはずだ」

 モニターの電源を入れ、壁際にあるビデオデッキにテープを入れて横のスイッチを入れるとやがて接続された箱型の機械内部の歯車が周りだし、モニターにザラついた映像が映し出された。

「これは……」

 映像内では暗い部屋で椅子に座った若者がスポットライトのような光で照らされている。後ろ手に縛られているようだ。

「レオンか!?」

 男の声がする。

『アルベルト・ファルブル。我々の要求はたった一つだ。一か月間油田に手を出すな。それだけでお前の息子の命は保証する』

「汚い真似を……!」

『我々が欲しいのは金、石油だ。お互いビジネスライクにいこう』

『父上……』

 レオンが喋り出した。

『悪党の言う事を聞くのは嫌だろうがここは一つ我慢してくれないかな』

 レオンの命乞いに映像内の別の男が笑っている。

『聞こえたか!? 可愛い息子は死にたくないってよ!』

『メイも捕まってるんだ。俺じゃない。メイを助けたいんだ』

『そういう訳だ。これから一ヶ月の間にもし向こうでお前の顔を見つけたらこいつらの喉をかっ切る。分かったな』

 映像は途切れた。


「仕方無い。アルベルト樣は残ってくれ。我々だけで油田は何とかする」

「しかし……!」

「誰の差し金か分からないんだ。今迂闊に動けばレオン達が危ない。それにドーン軍や企業の傭兵は君に敵対している訳ではない。問答無用で全員斬り伏せる訳にはいかないだろう?」

「まあそれは……そう、だな」 

「なに、ヴェイン公の軍もいるんだ。心配無いさ。今は彼等の命を優先しようじゃないか。警察に連絡して捜査をしてもらおう。奴等も見つけ出して裁きは受けさせるつもりだけどね」

「すまない」


 レオンは自分に当てられている光に目を細めた。二台のライトに当てられ、眩しくてまともに光の向こうにいる男達の姿を見ることができない。

「なあ。聞いてもいいかな。メイはどこにいるんだ?」

「違う部屋にいますよ、ご心配なく」

 マイスの声がする。

「ヴェイン公の使いだって言ったのは嘘だったの?」

「ええ。雇い主の名は明かせませんがね」

「あと一ヶ月って言ってたけど、メシとかトイレとかはどうすんのかな」

「食事もきちんと……」

「マイス」

 別の男の声がした。要求を伝えていた男だ。

「奴と長い会話はするな。会話から精神を操作する能力かもしれん」

「分かりました」

「レオン・ファルブル。お前からの質問は今後受け付けない。分かったな、大人しくしていろ」

「……分かった」

「……だがその質問には答えよう。俺達は全員バラバラの食材から作った食事を摂り、お前も誰かと同じローテーションの食事を摂る。もし食材を変化させる魔法ならお前も無事では済まないだろう」

「ん? んー……」

「トイレも監視させてもらうぞ。小さくなったり液体化するような魔法を使われたら逃げられてしまうからな」

「……! あーもう俺お婿に行けないよ」

(こいつ……! 何者だ? やけにファルブル家の魔法に慣れてやがる……!)

「どんな魔法か吐かせた方が早いのでは?」

「駄目だ。血液を武器に変える場合、挑発して負傷するのを待っている可能性がある。奴等の魔法はどんな能力か使うまで想像がつかん、絶対に侮るな。奴の今の状態をできるだけ保て」

「……分かりました」

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