第16話 大根王子Ⅱ 一
静かな波の音が聞こえて来た。
「う……」
アルベルトは眩しい日差しに顔をしかめながら目を覚ました。手で光を遮りながら上半身を起こすと白い砂浜に青い海。弓状に広がる海岸から打ち寄せる波がアルベルトの服を濡らしている。
「ここは……どこだ?」
アルベルトはズボンについた砂を払いながら立ち上がった。周囲にはヤシの木が生え、前方にはどこまでも綺麗な青い海が広がっていた。遠くに沈みかけた船が見える。船の残骸の木の板が波を受けて海岸に流れ着いて来ていた。アルベルトが振り返って陸地を見ると、大ぶりの葉がひしめいた植物が生い茂る森が奥の方へ続いていた。
「あ、そうか……確か船で視察に行く途中で嵐に遭って……」
「動くな!」
背後からの突然の声にアルベルトは身を固くした。アルベルトは波に対して横を向いた状態で両腕を上げて静止し、首だけを少し動かして背後を見ると、上半身裸の青年がボウガンをこちらに向けていた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 僕は……」
「動くなと言ってるだろ!」
「わ、分かった」
「膝をついて両手を頭の後ろで組め!」
アルベルトは言われた通りにすると、森の方から別の青年が飛び出して来て、アルベルトの手首を持つとロープで後ろ手に縛った。左膝に波が当たって冷たい。
「来い。長の所へ連れて行く」
こんがり日焼けした青年二人に引き立てられ、アルベルトは島の中へと進んで行った。
アルベルト達は暑さの中、葉の間を抜けた陽射しでキラキラした森を五分程進み、少し開けた場所に出ると、そこは木を組んでできた小屋が十軒ほど集まっている集落だった。
若い武器を持った男達がアルベルトを見ている。その中の丸襟の白いシャツを着た男が出て来て近付いて来た。
「おいジョエル! 海賊捕まえたのかお手柄だな!」
「僕は海賊なんかじゃない」
「ああ、今こいつをラウルの所に連れて行く所だ。どこにいる?」
「ラウルって言うのが君達のリーダーなのか?」
「ラウルならいつもの小屋だぜ」
ジョエルがボウガンでアルベルトの背中をつついた。
「うるせーぞ! 会話に被せて来るんじゃねえ!」
「落ち着いてくれ。一体僕が何したっていうんだ?」
ジョエルと男は肩をすくめた。
「なあ……こいつ海賊には見えねえぞ。この前の船の奴じゃねえか?」
「船?」
「さあな。俺にはどっちか分からない。ラウルに任せる」
「きっとそうです。君達は勘違いしているんだ」
被せて来たアルベルトの言葉を無視して二人は会話を進めている。
「ま、いいや。俺は武器の手入れしてくるからよ。後でこいつどうなったか教えてくれ」
「じゃあな。よし来い!」
「話を聞いてくれ!」
中央の小屋の麻でできた暖簾をくぐって中に入ると、部屋の中央にある篝火の灯りでオレンジ色に染められた室内で、黒髪の青年が篝火の前に胡坐をかき、日本刀を持って刃を見つめていた。
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