美少女魔王と人類最後の僕の日常7
もるすべ
第7話 色
「この色…… 合ってるかな? イフリートの髪色」
「そんなもんじゃろ」
僕の質問にぞんざいに答える、美少女な魔王イヴリス。
横から肩にもたれてきて、月白色の髪がノートにサラリと垂れた。頬にグリグリと当たる、羊角がウザ可愛い。僕を見上げてくる緑色の瞳、褐色肌、八重歯も可愛らしい。
「しかし、似姿まで描くとはのう」
「いちおう記録しとこうと思って、記憶が薄れないうちにね」
魔獣ファハの仄かに黄色い明かりを頼りに、色鉛筆を走らせる。
夜になって冷えてきたけど、寄り添う小っちゃな少女が僕の心を温めてくれる。その魔王に世界を滅ぼされて、人類は僕ひとりぼっち。今は魔王に天使も加え、三人での廃墟暮らし。
「それに書いておけば、いつか誰かの役に立つかもしれない」
「ワシらの、子らのためじゃな」
いやいや、そんなの考えてもない…… て言うのも野暮か。
いつの間にか第一夫人ってことになっちゃてるけど、エッチなことはしてないよ。今はとにかく、これまでの出来事をノートに書き留めつつ、都心に戻って政府関係とかの建物を調べてまわってる。倒壊してても、地下階は結構無事だったりするしね。
「お茶を入れましたわ、いかが?」
「ありがとう、サラさん」
天使サラフィエル、僕らの護衛だというメガネ美人のお姉さん。
彼女が自主的に食事の用意や、食料調達までやってくれるんでスゴく助かってる。おかげで調査が進むし、記録を書き留めたり色々考える余裕もできた。本当にありがたいよ。
「色々押しつけちゃって、ごめんね」
「謝罪など、めっそうもない。ノア様を支えるのは、第二夫人候補の務めですわ」
そういえば、何故かそうなってるらしい……
黒縁メガネの奥から瑠璃色の瞳が、僕を見つめてる。完璧な造形の顔に透きとおる白い肌、星明かりに映える金色の髪。その髪をふわりと揺らして頭を下げ「それでは、ごゆっくり」と告げて、立ち去るサラ。襟口に見える深い谷間から、思わず目をそらしてしまう。
「第一夫人の務めは、まだかのう?」
「そうだね、そろそろ休もうか」
魔王が眠たげなので、ノートを閉じて立ち上がる。
今夜はよく晴れてるし星を見ながらと思って、テントを使わず外に寝袋を敷いた。僕に続いて、イヴリスが寝袋に潜り込んでくる。第一夫人とやらになってから毎日だ、務めっていったい何だろうね? 花のように薫る小っちゃい体を優しく抱きしめて、今夜も仲良く眠ろう。
(妹とかいたら、こんな感じなのかな?)
「きれいな星…… あの彗星も」
「そうかのう?」
ファハにも休んでもらって、見上げる星空はスゴく綺麗だ。
街明かりが一つも無いからだろう、都心で見たこともない見事な星空。世界が滅んだ頃から見え始めていた彗星も、夜毎に大きくなりながら天空を彩る帚星と化していた。調査した資料にもあった彗星、テレビとかでは報じられなかった秘密の情報。
「……ほら、君と同じ色。綺麗だよイヴリス」
「うぇへへ…… 嬉しいのじゃ、お兄ちゃん大好き」
魔王の髪を一房、掬って彗星にかざし視る。
透きとおるような白色に、薄く仄かに青色の光を含んでいる、幻想的な月白色。空の端から端ほどまでも伸びる彗星の長い尾と、奇しくも同じ色だ。なんとなく共通の色なんだろうかとぼんやり考える、世界を滅ぼすモノの……
ちゅっ
イヴリスのキスが、僕の頬に優しく触れる。
キスしてくれるのは、正直嬉しい。でもね、羊角の先が僕の頭にガスッて当たるのは、結構痛いんだよ。そうそう、報道されなかった情報にね、各国から秘かにロケットが打ち上げられたっていうのもあってさ。核搭載のそれは、ぜんぶ失敗したらしい。
「僕も好きだよ」
ちゅ
顔に刺さらないよう、両手で羊角を押さえる。
そうしておいて、イヴリスの可愛いおでこにキスを返した。情けないって言われるかもだけどさ、今の僕にはこれが精一杯だよ。何か期待してるみたいに、目を閉じて待ってる彼女には悪いとは思うけど、ドキドキしすぎてこれ以上は無理。
「あの彗星。あとどのくらいで、ここに来るんだろう?」
「ん? ああ…… 大魔王なら、あと三ヶ月ほどでぶち当たろうぞ。ふぁ……」
誤魔化そうとふった話に、答えがあって驚かされた。
知ってたの? しかも「大魔王」って、以前の発言にあったことを思い出す。世界を滅ぼした魔王イヴリスと正体も所在も不明な箱、そして彼女が大魔王と呼ぶ彗星。すべてが繋がっているような気がする、はぐらかされないよう聞き出せるかな?
「ねぇ、大魔王って……」
「すー すー すー …………」
尋ねかけて、規則正しい寝息に気がついた。
寝ちゃったか、仕方ないね。あした聞いてみようと決めて、美少女の体を冷やさないように抱きしめて、寝袋を直した。あと、情報にあった彗星の大きさ、コアの推定直径五百キロメートルてのが地球に及ぼす被害についても調べなくちゃね。
「おやすみイヴリス、良い夢を」
「すっ ふぁぃ すー すー …………」
寝言で返事かえってきて、クスリと笑っちゃう。
ホント、可愛いな。もし地球が終わっちゃうとしても、あと三ヶ月はこの寝顔が見れるんだよね。そう思うだけで、僕の人生は幸せだった気がするよ。きっと、そう。
(僕を救ってくれてありがとう、魔王イヴリス)
月白色に輝く髪を一房、そっとかき寄せ。
星空を占領して、同じ色に輝く彗星を見上げて。
花のように薫るその髪に、優しく口づけた。
(もーーーー! 二人ともお子ちゃまなんだから!!!)
ひとり地団駄を踏む、仲間はずれの天使サラフィエル。
少年の第二夫人候補に名乗りを上げた手前、後がつかえているぞと憤っているらしい。それでも護衛の任務には忠実と見え、魔王の配下と連携しつつ警戒には余念が無い。
(ほほほ…… 次の手は、とっくに考えておりますわ)
恋の後押しにも、余念が無さそうだ。
美少女魔王と人類最後の僕の日常7 もるすべ @morsve
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