【KAC20247】専門学校の新聞部に頼まれて書いたコラムです。

音雪香林(旧名:雪の香り。)

第1話 幼稚園の頃の話。

幼稚園児の頃、ある休日に母が葉書サイズの真っ黒な紙を「この竹串の先で線を引いてみなさい」と与えてくれた。


首をひねりながら竹串の尖った部分でまっすぐに紙面をひっかくと、鮮やかな赤から橙色のグラデーションの線が現れた。


驚く私に「100円ショップで買ってきたの。あと4枚あるから、気に入ったならこれで遊んでいてね」と言い置いて、母は昼食の調理を始める。


私は夢中になって黒い画面全部を削り「黒色の下にこんな鮮やかな色が隠されているなんて!」と夢中になり、2枚目も同じように全部削った後、3枚目は少し違うことをしようとチューリップを線で描いた。


しかし、少し物足りなさを感じて、花弁を縁取った中の部分を削ってみたところ現実とはまた違った色合いのチューリップが誕生した。


私は夢中になった。

どんな「色」が出てくるかわからないワクワクと、「削る」という行為自体の楽しさ。


そして楽しいがゆえに、私は幼稚園で失敗をした。


いつものように保育士さんが「お絵描きをしましょうね」といったとき、あの黒の下から色が出てくる紙を自分で作れないかと考えたのだ。


私はまず白い画用紙をいろんな色のクレヨンでめちゃくちゃに塗りつぶした。


保育士さんに「何を描いているのかな?」と問いかけられてもどう答えたらいいかわからず「ナイショ」と誤魔化した。


そして塗り終わった後、その上を黒いクレヨンで塗り始める。


保育士さんがハッと息を呑んだが、私は気にせずご機嫌で黒いクレヨンを使い切る勢いでまんべんなく塗った。


だが、画面が黒くなったが竹串を用意しておらず、悲しくなってショボンとした。

それがいけなかったのだろう。


保育士さんが必要以上にやわらかい笑顔と声で「これは何を描いたのかな?」と二度目の問いかけをした。


私は当時は「スクラッチアート」という単語を知らなかったので「わからない」と答えた。


そこからはもう怒涛だ。


保育士さんが園長先生を呼び出し、園長先生がカウンセラーを手配し、両親に連絡が行った。


成人した今でも大人に寄ってたかって「心の傷」や「心の闇」がないのかどうか徹底的に調べられたのは苦い記憶だ。


母なんかは笑い話にしているが。

そんなわけで、私は今「カラーセラピスト」を目指している。


なにが「そんなわけで」なのか「苦い記憶」なのではなかったのかと思われるかもしれないが、「だからこそだ」と言いたい。


一般的な「色」の解釈がすべての人間に当てはまるわけではないのだ。

人それぞれ「経験」が違う以上「色に対して持っている心理的動き」も違ってくる。


他の幼稚園児にとって「黒」が陰鬱な記憶を呼び覚ますものであっても、私にとっては「ワクワクする」色であったように。


以上でこの「カラーセラピストの卵」コーナーのコラムを閉めたいと思う。

このコラムを書く機会を設けてくれた新聞部に感謝を。


私はこれからも一人前のカラーセラピストを目指して頑張ります。

では、また会えることを願って。




おしまい

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