短編29‐7話  数あるカクヨムな留学生、端的アドバイスは字数節約?!

帝王Tsuyamasama

短編29‐7話  数あるカクヨムな留学生、端的とりあえず?!

「とりあえず、告れ告白すればいいんじゃね?」

「と、とりあえずってぇ……あ、相手はあの伊都宮いとみやさんだよ? 中間や期末テスト考査で二桁の順位になったことがない、あの伊都宮さんだよっ?」

「あらあら。いつも三桁の順位なのですか?」

「いつも一桁に決まってるじゃん……」

「では栄雪さかゆき様がいつも三桁と?」

「僕は二桁だよっ!」

 中庭のベンチで、留学生のカタリィ・ノヴェルくんと、同じく留学生のリンドバーグさんに、思い切って伊都宮いとみや 愛香あいかちゃんのことが好き……かもしれない。どうしたらいいのだろう、と相談している僕は、虎居とらい 栄雪さかゆき

『トライ』なんて名字の割には、なかなか勇気を出せない中学二年生。今回この話を出したことですら、僕にとっては人生で五本の指に入るくらいの勇気の出しっぷりだった。

 なのに、返ってきた言葉はとりあえずだの、こ、告白すればいいだの……それができないから相談しているのにぃっ。

 今は給食を食べ終わった後の昼休みの時間。留学生の二人は、昼休みになるとよくここにいると聞いていたから来てみたら、二人そろっていたので、この話を聞いてもらっていた。

 カタリくんは、ちょっとつんつんしてる赤茶色の髪に、目は青い色。地図集めと小説を書くことが趣味らしい。身長は男子の中ではやや低め。

 バーグさんは、短めの銀色の髪に、目ははしばみ色。優秀なお手伝いアーティフィシャルインテリジェンスになるため勉強しているとかなんとか。身長は女子の中ではかなり高め。

 男子は黒色の学生服、女子は紺色のセーラー服が制服で、留学生の二人もみんなと同じ制服を着ている。

 あぁ、トリもいたね。オレンジ色の……鳥という割にはまんまるしてて、手先? 羽先? も割と器用。ペン持ったり金色のトロフィー持ったりしてる。何のトロフィーなんだろ。

 トリは自由に中庭を歩き回っていたけど、羽を広げて飛んだと思ったら、僕の右肩に乗ってきた。

 左隣にバーグさん、右隣にカタリくん。ああっ、やっぱこの話恥ずかしいな。

「告ればわかるさ!」

「簡単に言うけど……休みの日に遊んだことすらもないのに、いきなり告白したって、振られるだけだよ……」

「ではいつ告白をなさるのですか? 先に他の方に告白をされ、お付き合いが始まってもよいのでしょうか? 手遅れになって後悔することを学びに、こちらの学校へ進学されたのでしょうか」

「い、いつって言われても……もっと遊んで、仲良くなって……機が熟してから、とか……」

「他のやつが先に告白して付き合うようになってからっていうのは、機が何て言うんだ?」

「栄雪様が、手遅れとなった状況を機が熟すと言い通すのならば、そう言えるのかもしれませんねぇ」

「ううっ」

 トリだけだよ。僕の頭をぽんぽんしてなぐさめてくれるのは。

「ほら、トリだって『トリあえず告れ』って言ってるじゃん。トリだけに!」

「えぇっ」

「まあっ、カタリがトリの行動を読むことができるようになったというのに、どうして学校の見取り図は読めずに迷子ばかりを繰り返しているのでしょう。その度に案内してくれる親切な学生さんのお心は読めないなんて、変ですねぇ」

「そ、それとこれとは別だっ!」

 この二人は……仲がいいのか悪いのか?

(僕も、このくらい伊都宮さんとおしゃべりで盛り上がりたいな)

 あー……やっぱ僕、伊都宮さんのこと、好きなんだろうなぁ。

 伊都宮さんは、僕が保育園のときに、同じ地区にある幼稚園との交流会みたいなのがあったときが最初の出会い。

 隣に並んで体育座りをして、よろしくって声をかけてくれたとき。僕は初めて女子っていうのを意識したかもしれない。

 とはいえ当時はまだ幼稚園児だったから、返事は普通に返したと思うし、手をつないだり協力して走り回ったりすることにも、特に緊張することなく取り組めたと思う。

 そして小学校へ入学したとき、伊都宮さんと再会した。この辺りの保育園も幼稚園も、同じ小学校へ入学することになるから。

 伊都宮さんも僕のことを覚えていてくれていたようで、よろしくって、やわらかい笑顔と一緒に右手を出してくれた。

 明らかに幼稚園のときとは違う緊張が走ってしまったけど、僕も右手を出して、握手した。

 その握手した感覚と笑顔と声。それらがずっと頭に残り続けながら小学生生活を送っていたら……まぁ、す、好きになったというかっ。

 同じクラスになったことも一回くらいだったと思う。きっかけがあればしゃべるけど、好きだからこそ嫌われたくなくて、どうしゃべればいいのかわからないこともあって。

 中学校に入学したとき。体育館での先生のお話が終わった後、僕は母さんと一緒で、伊都宮さんもお母さんと一緒で。

 そうなったら、また……あのよろしくの儀が執り行われて。当然、ますます好きになった。

 中学校では、一年生から同じクラスになれた。そこで印象的な出来事があった。

 理科教室での授業で実験をするとき、同じ班になったわけだけど。そこでなんと、他のメンバーには見えないように、机の下へ手を出しながら、小声でよろしくと言ってきたこと。

 僕は周りを見回しても、他のメンバーは実験前にプリントへ、自分の名前や、これから実験する内容を書いていた。

 よろしくと言われたら、僕もよろしくと言って右手を出す。そして好きな女子との握手。

 入学式のような節目のときならわかるけど、理科の授業でのこの出来事。ん? もっと好きになっちゃうに決まってんじゃん。

 伊都宮さんはいつも余裕の笑み。やっぱ僕みたいな緊張しぃとは違うよね。幼稚園のときはここまで緊張しぃでもなかったんだけどなぁ。

 中学二年生となった今年も同じクラスになれて。そしてやっぱりというかなんというか。ロッカーへ荷物を入れているときに、よろしくと握手。

 他の人とも、よろしくの儀、してるんだろうか。さすがにそこまで目でずっと追っかけ続けてるわけじゃないから、よくわからないけど。

 そして今年なんてさ……体育祭でも文化祭でも。遠足でもあったんだよ!

(まさか僕の手を握ることで、僕の血液や脈拍とかのデータを取っているとか、そんなこと……さすがにないよねあはは)

 ……こんな冗談とかでも、笑ってくれるのかなぁ……笑わなさそう。でも優しいから笑ってくれそう。だめだ、申し訳ない気持ちになるから、こんな冗談言うのはやめておこう。

 …………と。こんなにもずっと良好なお友達関係を築けてきたのだ! 告白して振られでもしたら……あぁっ。でも好きだし……ぬあぁっ。

 というここまで思い詰めていて、ようやく打ち明けたというのに!

「好きなら告ればいーじゃん。友達よりも付き合いたいんだろ?」

「そりゃあ……それはー……そのー……」

「もし告白をして、愛香様が受け入れてくださったら、早ければ早い分、多くを一緒の時間で過ごせることになりますよ? お互いの寿命が永遠なものなら関係ありませんが」

「じゅ、じゅみょーって……で、でも告白が早すぎて振られちゃったら、なにもかもがなくなっちゃうじゃんかぁっ」

「では告白が遅すぎて、後悔というものを抱きしめることを、望まれているのですね?」

「……の、望んでいません」

「なら告るしかねーな!」

(なんで極端なんだこの二人ー! そんな他人事だからって言いたい放題ー!)

 …………他人事か。カタリくんもニカっと笑い、バーグさんも表面上は笑った表情に見えているけど。

 でもこの答えこそが、客観的に僕を見てこそ、ということだよね。

 確かに僕一人が考えているだけだと、早く告白すればいいなんていう考え、出ないもんね。

 むしろ他人事でもなんでも、こうして相談に対しての答えを率直にくれて。そしてそれらの言葉には、決して「告白したってどうせ振られる」とか「釣り合わないから時間の無駄」とか、そういう言葉は入っていない。

 そりゃその、言い方きっついけど、でも……これはこれで、応援……だと思うしっ。

 あ、またトリが僕の頭を羽でやさしくぽんぽん。今この位置からだと顔は見えないけど、いつものほほん平和そうな顔をしているから、あながちいい意味での軽いテンションで『トリあえず告れ』、と言っているのかもしれない。いやピキーもクエーもなにも言ってないんだけど。

 って、そのトリが僕の右肩から降りた。丸いけどやっぱ鳥なんだなぁ。ちょっと羽ばたいて地面に降りた……と思ったら、丸まって転がってってる? 鳥なのかなんなのか。

 その様子を僕たち三人が見ていたら……ん!?

 あれ、女子学生がそのトリを両手で優しくすくって、なでなでしながらこっちへ歩いてきて……

(伊都宮さあーん?!)

 いやまあその! 休み時間なんだから同じ学校で同じ学年の女子が、同じ中庭にいても全然変じゃないんだけどさ!

「こんにちは」

 伊都宮さんのこんにちはが聞こえたから、

「こ、こんにちはっ」

 僕からもこんにちはを返して……と思ったら、両隣の二人が同じタイミングで立って、

「こんにちは、愛香様。それでは栄雪様のこと、とりあえずよろしくお願いしますね!」

 なぜか僕の名前を出しながらも、バーグさんは右手を出して……

「うん……?」

 笑顔のまま、いきなりの展開に疑問符つけてそうだけど、右手を出してお互い握手。

 やっぱ他の人とも握手くらいするよねうんうん。

 バーグさんが手を離すと、続けてカタリくんが行って、

「あいついいやつだから、とりあえず遊んでやってくれ! 遊べばわかるさ! よろしくな!」

「ちょっ」

 さすがに僕は一言、ツッコミ挟んだけど、

「うん」

「うん?!」

 いや、二言ツッコミ挟んだけど、カタリと伊都宮さんが握手。

 僕と握手しているんだから、他の男子とも握手するよねうんうん。

「それでは、カタリが掃除場所までたどり着けず、遅れた責任を負わされるのは困りますから、わたくしはこれで」

「オレ別に一人で行けるときもあるし!」

「他の学生に連れていっていただいていることを、一人で行けると言うだなんて、幽霊と会話でもしていたのでしょうか」

「ほんと本気マジだって信じてくれよバーグさぁーん!」

 ……あれ? 二人が中庭から校舎の廊下へと戻っていったけどさ。これさ。つまりさ。

(伊都宮さんこっち向いたー!)

 そして当然の流れかのようにベンチに座る伊都宮さーん!

 あ、トリは地面に下ろされた。ってなんで僕の左足を羽でぽんぽんしてから転がっていくんだトリよっ。

(ますます二人じゃーん!)

 えーとこれなんかしゃべんなきゃいけないよね! えーとうーんと。

「い、伊都宮さん、いつもよろしくって握手してるね! お父さんかお母さんの教えとか!?」

 いきなりの緊張で僕はいきなりなに聞いてんだぁー!

「あいさつはしっかりしなさいと教わったけど、握手は私が進んでしているだけよ」

 こ、これが伊都宮愛香さん……もうこの圧倒的オーラ……。

「そ、そっかぁ! いつも僕と握手してくれてありがとう!」

 これもやっとお礼が言えたかも! 伊都宮さんもいつもの笑顔っ。

「こちらこそ。いつも仲良くしてくれて、ありがとう。これからも、よろしく」

 僕の全身にありがとうが波動となって響き渡ってきているけど、やはりよろしくと一緒に右手がっ。

 ならば僕は緊張しながらもっ、

「こ、こちらこそ、よろしく」

 僕は今日もまた、握手の瞬間にときめきであふれてしまっていた。

 ってあれっ。なんでちょっと笑ってるんだろう? いつもの余裕ある笑みというよりかは、なにかのギャグで笑っているというか。

「これからも、もっと……よろしく」

(うええっ?!)

 伊都宮さんが、いつも……のよりももう一段階明るい笑顔で、右手は握手したままに、そこへ左手も重ねてきて、僕の右手は伊都宮さんの両手に包まれている!

(こ、これはどうしたらいいんだろう?! それにもっとよろしくってどゆこと!?)

 わけわかんないことだらけだけど、よろしくと言われちゃぁ!

「……こ、こちらこそ、よろし……く?」

 僕も左手を出して、同じく伊都宮さんの右手を包むような形にしてみた。だからなんでそんな笑ってんの!?

「バーグちゃんとカタリくんからも、よろしくと頼まれたもの」

「くぅっ!」

 おいこらトリ! 遠くでちらっちら見えてんだから! のほほん平和な表情でころころ転がってんの!

 伊都宮さんの本日の笑顔強烈すぎて直視できてないからさぁ!

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