【KAC20246】“雨降らしの魔王(Rainy Nightmare Lord)”

新名 在理可/新名空猫/*ソラ*(^・×

第1話「“雨降らしの魔王(Rainy Nightmare Lord)”」

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 ──トリアエズ……


 ? とりあえず……?

 ……何だったかな?


 ああ、桜の花がきれいだ。

 花びらが散ることを不吉に思ったり、寂しいと感じる人でも、きっと桜の花びらが舞い散るさまは、素直に、ただ、綺麗きれいだと感じるだろう。

 たとえ自分がどこの誰で、ここは一体どこなのか? わからない状態でも、綺麗だと思うだろう。今の自分のように。


 そう、気づいたらここにいた。目の前をひらひらと落ちてゆく花びらに気づいて、そちらと見ると、満開に桜の花が咲いているのが目に映った。

 しばらくその景色に見惚みほれていたが、はて、自分は今のんきにこうしていていいのだろうか? と気になった。そしてここはどこだろう? と考える。

 だが、わからない。とんと見当けんとうもつかない。

 自分はそこまでボケているのか? とあきれたくなる。自分は立場上もっとしっかり色々とやってきたはずだ。あれこれ先々まで考えて……考えて何をしたんだったか? そもそも考えていたことは何だったのか? 自分の立場とは……が、何の立場にいていたのか?


 ……とりあえず、俺の名前は「名無し」だ。名前の無い……あっても明らかでない……者のことを「名無しの権兵衛ななしのごんべえ」と言って、昔は「権兵衛」と呼んだが、今は「名無し」と呼ぶ方がわかりやすく通じやすいだろう。

 どちらにしても自分に関する記憶がない状態で名乗らなければならないとしたら、名無しそれだ。


 もしかしたら自分のことを何か知っているかもしれない、そう思って、目の前の桜の花見に来たらしい若い女性グループに声をかける前に、可能な限り不審ふしんな要素を取り払うべく、様々な脳内シミュレーションをしておいた。だが……


「……あー、ちょっとすみませんが、聞きたいことがあるんだが……変なことを聞くようだけど……」


 そう声をかけても誰も不審がるどころか、何の反応も返さず、彼女たちは仲間同士での会話を普通に続けている。


 ……これは、下手に反応すると変な人でも対応を迫られるから、聞こえない振りをするという作戦を、そんな素振そぶりも見せず以心伝心いしんでんしんだけで彼女たちは連携れんけいしてやってのけているとでもいうのか?


 ならば、多少、不審者丸出しでもいいから、無視できないように彼女たちの目の前まで近づいてみることにしよう。どうせならこちらに背を向けている一人の肩に手を置いて声をかけよう。驚かれるだろうが無視されるよりはいい。


「すまないが、ちょっと聞きたいことが……」


 だが、ダメだった。それでも気づいてもらえないばかりか、肩に置こうとした自分の手が……驚くことにすり抜けてしまった。


 結論として、どうやら俺の声は彼女たちには聞こえていないし、姿も見えていないし、こちらから触れることさえできない。

 ……それではまるで……自分は幽霊か何かで、もう死んでいるのに気づかずに存在しているとでもいうのか? だがそれなら、自分のことは何も覚えていないというのも、死んだ時のショックか何かで、とかで納得ができるかもしれない。


 だが、その時、どうしても自分の存在に気づかせられないか? と思ってしまった。どうすれば彼女たちに自分の、俺の存在を気づかせられるか? と。できれば彼女たちが驚く形で、でも俺にとっては喜ばしい形で……と考えているうちに。


 俺にとって喜ばしいこと?

 ……とりあえず、可愛い女の子たちの服がけて下着が見えたら嬉しい。という考えが浮かんだ。

 それは「俺」の忘れてしまっている特性によるものかもしれず、それを追及したら、自分が誰であるのか? 思い出せるかもしれない、と思った時に。


 突然空が曇ってきて暗くなり、ポツポツと、やがてザアアアーッと雨が降りだし、彼女たちの服がれて、下着が透けて見えた。



 ──とりあえず、これが、俺がのちに“雨降らしの魔王(Rainy Nightmare Lord)”と呼ばれることになった出来事だった。


to be continued...(かもしれない)


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