俺が家を出ることを決めた理由

亜璃逢

俺が家を出ることを決めた理由

 突然だけど、みんな、何て呼ばれてる?

 あ、えっと、あだ名というかニックネームというか。

 

 うちの学校は敬愛大学の附属学校園でさ、長ければ、幼稚舎から短大や高校まで一緒って奴も出てくる、そんな学校だ。

 幼稚舎なんて2クラスだけだし、小学校は3クラス。中学で4クラス。

 まあ、高校は普通科のほかにも家政科、商業科、後は体育特化のスポーツ科だったり、音楽科とか美術科なんていう芸術クラスもあるから、クラス数はそれなりに増える。

 増えたクラスの分だけ、ほかの学校からやってくる生徒が増えていくわけだ。


 小学校や中学校、高校でうちの学校にやってきた奴と、内部進学組の大きな違い。なにかわかってもらえるだろうか。

 

“新しく友達を作るチャンス”


 まあ、それもある。あるけど、もっと大事なことだ。


“〇学校デビューができない”


 お、かなりいいとこ来たね。

 そう、いきなり格好つけたところで、昔から知ってる奴らがいるわけだから、なかなか、一度ついてしまったイメージが払しょくできなかったりする。

 これ、地味にダメージでかい。



 さて、自分では変えられないもの。

 それは、名前だ。山田太郎とか日本花子とか、まあ、名前だ。

 役所に掛け合えば何とかなるんだろうけど、子どもだからな、まだ。


 俺は、御影斗吏という、「みかげ とうり」と読んでくれ。


 幼稚舎のころは、みんな苗字ではなくって、名前に君とかちゃんとかつけて呼んでたから、俺も「とうり君」ってみんなに呼ばれてた。発音としては「とーりくん」だな。

 幼稚舎って、子どもの意思というより、親がここに行かせたいっていう思いでお受験なんてものをするわけで、品がいいというか、よくしつけられているというか、友達の名前を呼び捨てにするなんてことはなかったな。


 小学校にあがっても、最初のうちは幼稚舎組が「とーり君」って呼んでたから、外部入学のみんなにも、そう呼ばれてた。うん。確か、3年生に上がる頃までは。

 まあ、そのうち、苗字に「○○っち」なんてつけるのが流行り始めて、「御影っち」なんて呼ぶ奴も現れてきた。

 「○○っち」のほかには、苗字と名前を略して4文字にしたあだ名なんてのも多かった。

 女子は、名前にもよるけど、3音なら「○○〇ん」とかさ。かおりんとかしおりんとか、そんな感じ。


 ところが、だ。

 上級生になってくると、体形だったり髪型からあだ名が変わってくることがある。

 例えば、やせていた山倉さんは、一部男子から骨倉って呼ばれて涙目になってた。


 また、苗字や名前の呼び捨てなんてのも、ざらになってくる。

「おい、御影」とか「なあ、とうり」とか。

 これはこれでなんか親近感、親密感を感じるから、ちょっと嬉しい。


 中学卒業するまでは、呼び捨てで来てたんだ。


 

 そして、晴れて高校入学。

 内部進学は、5点くらい合格点が外部からくる受験生より低いだけなので、結構みんな真剣に受験に臨む。15点くらい差をつけてくれてもいいものを。


 閑話休題。


 高校に入っても、中学まで一緒の奴らが呼び捨てで呼んでたから、そのまま行くと思ってたんだよな。

 なのに、ある時寝坊して、慌てて家を飛び出し教室に駆けこんだ俺の頭を見て、誰かが言ったんだ。


「ぷっ。なんだその頭、とさかみたいになってるぞ」

「斗吏だけに、トリあたまってかwwwwww」


 爆笑するやつ、笑いをこらえてる奴、そんな奴らのことを見てにやってしてる奴。

 その時から、俺のあだ名は「トリ」に変わった……ようだ。


「やだよ、前みたいに普通に呼んでくれよ~」


 がっつり言うと角が立ってしまうと思って、こんな言い方になった。


「え、いいじゃん、とりあえずトリでいこうぜ」


 名前が鳥谷とか鳥川とかだから「トリ」なら、ありがちなあだ名だろう。

 でも、俺の「トリ」は鶏のとさかの「トリ」だ。解せぬ。

 しかもなんだ、とりあえずトリって。



 ある日、クラスで集めたプリントを担任のいる研究室に持っていくことになった。

職員室じゃなくって、学科ごとに別分かれてんだよ。しかも教室からちょっと遠い。


 ひとり5枚×32人分のプリントを持っていくんだけど、紙って意外と重いよなぁ。まとまると重い。いや当たり前なんだけど。

 両手がふさがってるから、行儀悪く肘でノックして、しばらく待つ。


 あれ、誰もいないのか?

 よいしょと片手でプリントの束を抱えて横開きの扉を開けようとすると鍵がかかっている。


 しばらく待ってみたが、ほかの先生も通らない。

 仕方がないから、一旦教室に持ち帰った。


「あれ?トリ、先生居なかったのか?」

「うん。鍵かかってたし、一回帰ってきたよ。後でもっかい行ってくる」

「そっか、お疲れさまだな。トリ、会えずってか?」


 げ、げ、解せぬーっっ!!



 この時俺の気持ちは固まった。

 大学は県内どころか、県外の学校に行こうと。


 だ、大学デビュー、決めてやる!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

俺が家を出ることを決めた理由 亜璃逢 @erise

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ