涼しかったから

麻田 雄

第1話


 中学生の頃だったか……。

 学校も部活も終わり帰路に着く場面だった。


 時間は夕刻、季節は夏――。


 体育館の中で活動する部活だった。

 体育館脇のドアが開放されていたが、蒸し暑さはそう変わる事はなかった。


 同じ様に部活が終わり、家路に着く生徒達が通常の出入り口(玄関)付近でごった返していた。

 そうなると、そこは既に社交場だ。

 主に思春期の男女の……。

 夏の祭りが近かった事も拍車を掛けていたのだろう。


 現代のように、皆がSNS等で簡単に連絡が取れる様な時代では無かった為、そういった安易な開放感でさえ特別なモノだったのだと思う。

 皆、このチャンスを活かそうと躍起になっていたのだろう。

 分からなくもない、ある意味自然で微笑ましい事なのかもしれない。

 ……だが、僕はそれが苦手だった。


 異性に興味が無かった訳では無い、むしろ、過剰に意識していたのかも知れない。

 だからこそ苦手だった。

 緊張するからだ。

 それも厨二病って言えるんじゃないの?っと、今ならば世論に反論出来なくも無い。

 無論、しないが……。


 あからさまに女子が多いと分かったその日、僕は部活の友人達から隠れ、逃げるように、通常の出入り口では無く、まだ開放されていた体育館脇のドアから家路に着いた。



  ◇  ◇  ◇



 翌日、部活の友人に前日の事を尋ねられた。

 何故、玄関から帰らなかったのか?と。


 正直な答えを返す事は憚られる。

 だが、合理的な言い訳も思い付かない。

 

 短時間ながらも苦悩し、あたふたしながら、しどろもどろに、だが、自分の中では冷静である事を装うつもりでいた。

 そして、ふと頭の中に状況の一つが思い浮かんだ。


 「そっちの方が涼しいから……」


 変わらねぇよっ!!

 むしろ、そっちの方がまだ西日が差してて暑かったよっ!!

 だいたい、普段そっちから出る事が無いのに何で知ってんだよ!!


 と、自分自身ツッコミどころ満載だった。

 分かってる。その言い訳が苦しい事は……言った直後に気付いたさ。


 部活の友人は「へぇ……」と、嘲笑するように言った。


 その反応が、更に僕を気恥ずかしくさせた……。


   完

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涼しかったから 麻田 雄 @mada000

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